東大ら,宇宙観測技術で生体組織分子をイメージング

東京大学,国立がん研究センター,慶應義塾大学は,超高分解能小動物用SPECT装置のイメージング技術を用いることで,数百μmレベルで生体組織を複数の放射性核種プローブを同時に用いて詳細にイメージングできることを今回実証した(ニュースリリ)。

動物生体内の分子イメージングでは,組織を透過しやすい放射線を発する放射性核種をプローブに用いたイメージングが行なわれる。放射線によるイメージングには主にポジトロン断層法 (PET)と単一光子放射断層撮影 (SPECT)があり,SPECTでは複数の放射性核種のプローブを用いることが可能。

今回,研究グループは,宇宙観測用に用いられていたテルル化カドミウム(CdTe)半導体検出器を搭載した小動物生体内イメージング用のSPECT装置を完成させた。天体観測データの解析で用いられるスペクトル解析方法を応用することで,従来は困難であった複数の放射性核種プローブを同時に用いて,それぞれの高空間分解能の画像を得ることに成功している。

研究グループは,完成させたSPECT装置と前述の解析手法を用いて,従来よりさらに高精度マルチ・プローブ分子イメージングの研究を行なった。この研究では,ヨウ素-125(125I)を吸着させた数百μmサイズのスフェロイドやビーズを用いたイメージング実験を行ない,ガンマカウンターで測定した放射活性と一致する結果が得られた。

特に,テクネチウム-99m(99mTc)の溶液の中に125Iを吸収させたビーズを入れて2核種を含むサンプルのイメージングを行なった結果,ビーズを明瞭に識別することができ,装置の高い精度でのイメージング能力と放射線量の定量的な評価が確認された。

さらに,この技術実証のため,癌転移モデルマウスでも実験を行なった。4T1-mNIS癌細胞のリンパ節への数百μ大の微小転移を含むイメージングを行ない,99mTc-フィチン酸と125I-NaIの2つの放射性核種プローブを使用してイメージングを行なったところ,リンパ流路と転移性腫瘍の両方を同時に捉えることができ,組織を使用した弱拡大のマルチ・プローブ蛍光免疫染色法に一致する画像を再現した。

研究グループは,この成果は,小動物生体組織の微細構造の可視化や複数分子の局在・相互作用などを明らかにすることが可能であり,生物学研究,薬学研究,医学研究など様々な分野での応用が期待されるとしている。

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