京都大学と広島大学は,単一光子源と線形光学素子のみでは実現が不可能な複雑な量子状態(非フォック状態)の存在を理論的に明らかにし,光量子回路を用いて最も本質的な非フォック状態(iNFS)を実現,さらにiNFSに特徴的な性質を用いて生成の検証実験に初めて成功した(ニュースリリース)。
量子コンピュータや子暗号,量子センシングなど,「量子技術」の中でも,光子は,長距離伝送が可能で,また室温でも量子状態が保存されるため,有力な担体となっている。
特に,さまざまな,複数の経路(モード)に複数の光子が存在する量子状態(多光子多モード状態)は,光量子コンピュータや光量子センシング,また光量子暗号の長距離化のためのリソースとして非常に重要。
それらの応用には,必要となる多光子多モード状態を実現し,またそのような状態が実現していることを効率的に検証することが必要となる。
一方,これまでの様々な研究では,半透鏡(ビームスプリッタ)などの「線形光学素子」に,複数の単一光子を入射して量子状態を生成・制御する方法が用いられてきたが,このような方法によって、任意の多光子多モード状態を実現しうるのか、などについてはよく分かっていなかった。
この研究の主な成果は次の3点。
①単一光子源と線形光学素子のみで実現できる多光子多モード状態(フォック状態)に対して,単一光子源と線形光学素子のみでは実現が不可能な多光子多モード状態(非フォック状態)の存在を理論的に明らかにした。
さらに,非フォック状態に関しても,フォック状態から比較的容易に実現出来る非フォック状態(NF-AFS)と,生成が困難な本質的な非フォック状態(iNFS)に分類されることを示した。
②生成が最も困難であるiNFSの一種を,2つの光子が3つの経路に存在する場合について,独自に開発したフーリエ変換光量子回路を駆使することにより実現した。
③iNFSは,含まれる光子のいずれかを検出しても,残りの光子が複数の経路の重ね合わせ状態に存在するという,一見不思議な性質(条件付きコヒーレンス)を示すことを見出した。またこの性質を利用した効率的な検証方法を発案,実現した状態がiNFSであることを実証した。
以上の様に,従来法の限界を超えた,複数光子の量子状態の実現と検証に成功した。このような,任意の多光子多モード状態は,光量子コンピュータや,光量子センシングにおける重要なリソースとなる。
研究グループは,より効率的な光量子コンピュータや光量子シミュレーション,高い感度を持った光量子センシングに繋がるとしている。