東京理科大学と大阪公立大学は,近赤外ハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)と機械学習を組み合わせた非侵襲・非標識の新たな手法を開発し,生体組織に蓄積された脂肪酸の炭化水素鎖長・飽和度などの分子特徴量を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
非アルコール性脂肪性肝疾患の原因の1つとして過剰な脂質の蓄積が挙げられるなど,脂質と肝疾患の関連性が指摘されている。そのため,肝臓に蓄積された脂質分布を非侵襲・非標識でより詳細に測定できる手法が模索されてきた。
800~2500nmの波長をもつ近赤外線は生体組織の透過性が高いと同時に,さまざまな有機物によりわずかに吸収されるなどの特長を有している。これらの特性により,食品中の水分量の推定,皮膚の発色団の視覚化など,さまざまな分野で応用されている。
しかしながら,近赤外領域で得られる有機物の吸収スペクトルは,弱い吸収ピークが幾重にも重複して形状が複雑化しており,スペクトルから正確な情報を抽出するのは非常に難しい。
過去に研究グループは,機械学習を組み合わせたNIR-HSIにより,非侵襲・非標識で肝臓内の脂質濃度の分布を可視化できる手法の開発に成功している。しかし,分子量,単結合数,二重結合数など,構造や性質の異なる脂質を分類するまでには至っていなかった。
そこで今回,総脂質含有量に加えて,脂肪酸の炭化水素鎖長と飽和度を非侵襲・非標識でイメージングする方法の確立を目的として研究を進めた。
研究では,脂肪量を調整した食餌をマウスに与えた後,肝臓の摘出,脂質の抽出,NIR-HSIによる分析を行なった。脂肪酸の炭化水素鎖長と飽和度という特徴量を軸として,サポートベクター回帰(SVR)を用いて解析することにより,総脂質濃度だけでなく,脂肪酸の炭化水素鎖長と飽和度という分子特徴量の描出に成功した。
研究グループは,この手法をさらに発展させることで,脂質が病態進行に関係するとされている非アルコール性脂肪性肝疾患,脂肪性肝炎,肝硬変や肝細胞がんなどのリスクを推定できる可能性があり,それらの病態生理学的状態の解明につながることが期待されるとしている。