近畿大学の研究グループは,情報通信のインフラ技術として世界で広く使われている「デジタルコヒーレント光通信用受信器」の復調機能を独自技術で拡張し,エネルギー効率が条件次第で2倍になる通信品質に優れた情報伝送を実証した(ニュースリリース)。
光ファイバアクセスネットワークシステムは,日本勢が世界をリードして開発し,約20年前に世界に先駆けて日本国内で商用サービス化された。WiFiや携帯電話サービスがブロードバンド通信の主流となっている現在でも,光ファイバアクセスネットワークシステムは,世界中で通信インフラの屋台骨となっている。
一方,ICT需要の高まりとともに,ICTシステムのエネルギー消費削減が重要な社会課題になっている。実際,「第6次エネルギー基本計画」においても,エネルギー消費の効率化・グリーン化とデジタル化は両輪として進めていく必要があるとされている。
研究グループは,受信器に設置される局発光源と受信情報の内容を正しく判定するためのディジタル信号プロセッサ(DSP)に実装する2ステージ復号アーキテクチャ受信回路を独自開発し,光波の点灯タイミングと光波の位相の変化を読み取ることで,送信器から送り出された光信号を正確に復調できるようにした。
実証実験は,195兆ヘルツの赤外光レーザー光源と20kmの石英ガラス光ファイバ,独自開発の受信器を用いて行なわれた。また,毎秒25億サイクルの時間ロットを定義し,8つの時間スロットを1セットとする時間フレームにおいて1つの時間スロットのみに光波を点灯させ,且つ2種類の光波の位相を変化させながら情報伝送を行なった。これを「時間領域単一搬送波(8,1,二相位相シフトキーイング)インデックス光変調方式」と呼ぶ。
研究グループが開発したソフトウェア実装型DSPを動作させた結果,時間領域単一搬送波(8,1,二相位相シフトキーイング)インデックス光変調信号は,基本伝送レートが25億b/sである二相位相シフトキーイング光変調信号に対して,情報伝送レートが半減するものの,受信器で10万分の1の符号誤り率を維持できる受信感度は4倍向上し,1bitあたりの情報伝送に必要となるエネルギーを半減できることを確認した。
研究グループはこの成果により,消費電力削減への貢献および受信器の復調性能が上がることで情報の伝送可能距離が延長され,地域の情報格差の解消にも繋がるとしている。