東北大学の研究グループは,液体が高速で流れる際に圧力が低下して気体(泡)に相変化する現象「キャビテーション」の有効利用に重要な渦キャビテーションの構造を,XFELを用いて世界で初めて可視化することに成功した(ニュースリリース)。
これまでキャビテーションで発生する気泡に関する数多くの研究が行なわれてきたが,有用な気泡は圧潰衝撃エネルギーが大きい細長い渦キャビテーションであり,従来の超音波で発生させるキャビテーションよりも20倍以上効率が良いこともわかっている。
キャビテーションの圧潰衝撃エネルギーは,気泡の形状や密度に強く依存するので,渦キャビテーションの構造を明らかにする必要がある。しかし渦キャビテーションはサブミリオーダの大きさで,かつ,ミリ秒オーダで変動するために,その詳細構造の観察は容易でなく,これまで明確にできなかった。
研究では,開発したベンチュリ管を使って渦キャビテーションを発生させ,かつX線透過性の良い観察部を有する装置を用いて,同じく開発した空間分解能と時間分解能に優れたX線高速度観察により,広い視野を確保できるSPring-8のBL28B2と,世界最速886nsの最高速度European XFELのSPB-SFXで実施し,両方のメリットを活かして渦キャビテーションの構造と挙動を解明した。
その結果,従来は,多数の直径数十μmの球状気泡で構成されていると考えられていた渦キャビテーションが,実際は数百μm~1mm程度の大きな角張った形状の気泡で構成されていることを世界で初めて発見した。
また,「渦」の重要なパラメータである,渦が回転しているときの接線速度を渦キャビテーション界面の移動速度から求めることに成功した。
渦キャビテーションの発生数のうち,数百個に一つが強力な圧潰衝撃力を生じることがわかっている。X線による可視化観察によりこの原因がわかれば,大きな圧潰衝撃力を生じる渦キャビテーションの発生率を増やして,化学プロセスや機械的表面改質の効率を100倍以上向上できる可能性があるという。
また,気泡の圧潰衝撃力は,気泡形状や大きさに強く依存していることから,研究グループは,この研究成果を基に新たに数値シミュレーション法を開発するなど,学術的な波及効果が期待できるとしている。