大阪大学,東京大学,学習院大学は,特殊な磁性体中に存在するマヨラナ粒子の量子もつれを利用した,量子テレポーテーション現象を理論的に解明した(ニュースリリース)。
特殊な磁性絶縁体でのマヨラナ粒子の出現可能性は2006年に理論的に提案され,2009年に具体的な候補物質が見つかって以降,世界中で磁性体中のマヨラナ粒子の探索が行なわれてきた。
近年,候補物質の塩化ルテニウム(α-RuCl3)でのさまざまな実験によって,マヨラナ粒子が存在する間接的な証拠が積み上げられたことで,本物質中でのマヨラナ粒子発見の機運が高まっている。しかしながらマヨラナ粒子の発見にはマヨラナ粒子固有の物理現象を直接測定する必要がある。
また,物質中のマヨラナ粒子は,トポロジカル量子コンピュータ実現のワイルドカードになると期待されている。日進月歩の勢いで開発が行なわれている従来の量子コンピュータは,一般に,外部環境からのノイズに非常に敏感で,量子情報をいかにしてノイズから保護するかが重要な課題となっている。
他方,マヨラナ粒子を用いたトポロジカル量子コンピュータは量子情報を保護する機構を内在的に保有するため,上記の課題を根本的に克服できると考えられている。したがって,理想的な量子コンピュータの長期開発計画において,物質中のマヨラナ粒子の発見は重要な転換点となる。
研究グループは,量子もつれ状態を作るマヨラナ粒子は,外部磁場がある場合,磁性絶縁体上にある欠陥(点欠陥)に束縛される性質があることを利用し,複数の点欠陥がある場合についてマヨラナ粒子が現れる模型を理論的に考察した。
その結果,点欠陥に強く束縛されたマヨラナ粒子の量子もつれを反映した量子テレポーテーション現象が,点欠陥に隣接した電子スピン間に現れることを解明し,相対距離に依存しないことを定量的に評価した。
次に電子スピンの量子テレポーテーション現象が走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた電気伝導度測定によって検出可能であることを数値シミュレーションによって示した。点欠陥にマヨラナ粒子が束縛される場合,電気伝導度は非ゼロの値を取り,マヨラナ粒子が存在しない場合はゼロになる。
研究グループは,今後,この研究で理論的に提案した電気伝導度測定を行なうことで,候補物質α-RuCl3等の特殊な磁性絶縁体中のマヨラナ粒子の検出が期待できるとしている。