京産大,彗星のアンモニア生成分子の光解離寿命算出

京都産業大学の研究グループは,C/2014 Q2 (Lovejoy) 彗星において観測されたアンモニア分子(NH3)を生成する謎の未同定分子について,彗星コマ・ガスのシミュレーション結果と観測結果との比較から,太陽紫外線での光解離寿命を約500秒以上とする結果を得た(ニュースリリース)。

彗星は太陽系において最も始原的な小天体の一つとされ,炭素,酸素,窒素の比較的軽い3種類の元素の組成比が,太陽の組成比と非常に似ている。しかし,これらのうち窒素だけは,若干の欠乏が見られることが過去の観測研究でわかっており,この窒素欠乏の謎は,長く未解決だった。

しかし,チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を探査したロゼッタ探査機は,その原因がアンモニウム塩ではないかと考えられる結果を得た。つまり,窒素原子は,揮発性の高い氷に含まれるNH3やシアン化窒素(HCN)だけでなく,アンモニウム塩として固体の形でも彗星核に取り込まれており,普段はガス化しにくいために観測されないのではないかと指摘した。

研究グループは,2015年にハワイ島マウナケア山の山頂にある口径10mのケック望遠鏡と近赤外線高分散分光器NIRSEPCを用いてC/2014 Q2 (Lovejoy) 彗星を観測した。その結果,NH3は彗星核から直接放出されているのではなく,彗星コマ中で別の分子などから二次的に放出されているという観測結果を得た。

この研究では,DSMCと呼ばれる計算技法をつかった彗星コマのガス流れを再現するシミュレーションを実施し,どのような分子からNH3が生成されているかを調べた。希薄な大気中での地球帰還カプセルの大気抵抗の計算や,エンジンのガス燃焼のシミュレーションにも用いられている。

研究グループがC/2014 Q2 (Lovejoy) 彗星を模擬したシミュレーションの結果と実際に観測されたNH3の分布の様子を比較したところ,NH3の元となる物質は太陽光による光解離現象に対して500秒程度の寿命を持つことが分かった。

実際にはNH3の一部は彗星核から直接放出されていると仮定すると,500秒以上の寿命を持つと考えられる。また,シアン化アンモニウム(NH4CN)や塩化アンモニウム(NH4Cl)といった単純なアンモニウム塩が寄与していた可能性については,同彗星の光解離で生成されるHCNや塩化水素 (HCl)の空間分布との比較から否定的となった。

研究グループは,NH3の元となる物質の特定には至っていないが,光解離に対する寿命に制限をつけたことで,実験室での起源物質調査が進むとしている。

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