北里大学,愛媛大学,物質・材料研究機構(NIMS)は,熱や力によって分裂して色が変わるホモキラル二量体の合成に成功した(ニュースリリース)。
右手と左手のように鏡像が重なりあわない構造を持つキラル分子が,自他のキラル構造を選別しながら自発的に集合する現象(キラルセルフソーティング)は,生命の起源にも関係があると言われており,その理解と応用は広い関心を集めている。
キラルセルフソーティングは,高分子や無数の分子から成る巨視的な集合体において強く発現することが知られているが,数個の分子から成る小さな集合体において十分なキラル選別性が生じることは稀だった。
そのため,外部刺激によってスイッチングが可能な小さな分子集合体の設計において,キラルセルフソーティングを取り入れることは見過ごされていた。
研究では,プロペラ構造を有するキラルなイリジウム金属錯体に適切な長さのアルキル鎖を導入すると,アルキル鎖間の適度な立体反発によって二量体と単量体のあいだで可逆性が生じることを見出すとともに,二量体がほぼ完全なホモキラル選別性(同種のキラル構造によるキラルセルフソーティング)を有することを詳細な解析に基づいて証明した。
溶液中での平衡において,室温では配位不飽和な単量体(5配位)が主成分だが,低温では配位飽和なホモキラル二量体(6配位)が形成されて色が変化した(サーモクロミズム現象)。
更に,ホモキラル二量体の結晶は準安定状態にあり,力学的な刺激によって単量体へと分裂し、配位構造が変化して色が変わること(メカノクロミズム現象)も明らかとした。
研究グループはこの成果について,キラルセルフソーティングの理解に重要な知見を与えるとともに,配位飽和状態と配位不飽和状態のスイッチングによって,反応物やゲスト分子の結合や脱離を自在に制御することができれば,高い不斉誘導能を有する分子触媒の開発や微量キラル分子を検出する化学センサ,キラル構造に由来した光学・スピン特性を持つ光電子デバイスの創出などにつながるとしている。