NAISTら,細胞群の振る舞いの変化を明確にする技術を開発

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),東京大学,生命創成探究センター,大阪電気通信大学は,植物の根の成長を駆動する数百個の細胞の振る舞いを精密に計測し,得られた膨大な数値データを統合して人間が直感的に解釈できる形式で提示する技術を開発した(ニュースリリース)。

シロイヌナズナの根の先端は,透明かつシンプルな組織パターンを持つことから,植物発生研究のモデルとして広く用いられてきたが,根端の位置は,根の成長に伴って移動してしまうため,そこで繰り広げられる細胞群の分裂や伸長の時間的変化を継続的に捉えることは困難だった。

研究グループは,成長を続けるシロイヌナズナの根の先端を自動的に追尾し,根端を構成する個々の細胞の分裂や伸長を3次元の画像データとして連続的に取得する顕微鏡システム(水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡)を開発した。

研究グループは,皮層細胞の核で特異的に赤色蛍光タンパク質を発現する形質転換植物作出し,その蛍光シグナルの動態をこの顕微鏡システムを用いて取得した。

この顕微鏡システムには「スピニングディスク型共焦点スキャナ」と呼ばれる検出器が装備されており,高速かつ低浸潤に器官の深部の蛍光を観察することが出来る。これにより皮層を構成する8本の細胞列の核の3元動態を,時間軸に沿って記録した4次元画像データを取得した。

細胞群の動態を3日間にわたってつぶさに記録して得られた膨大な細胞の動態の解析は深層学習による画像解析手法を3次元データに応用し,分裂している皮層細胞の核と分裂していない核を自動的に識別するプログラムを構築した。

さらに識別された核が存在する細胞の位置関係や,分裂する核とそこから生み出された2つの核の関係を自動的に紐づける追跡法を開発した。さらに,細胞の分裂動態を楽器の和音へと変換して提示し,得られたデータを直感的に解釈する可聴化ツールも開発した。

これらの技術により,シロイヌナズナの皮層細胞が根端部の狭い区画内で素早く5回連続して分裂することでその数を約30倍に増やし,これにより生み出された細胞集団が,根の基部側の区画で一斉に伸長することで根の成長を駆動していることが明らかとなった。

また可聴化ツールにより皮層を構成する縦方向の細胞列の間で細胞分裂のタイミングが同調していない可能性が示され,計算機シミュレーションにより確認された。

研究グループは,これらの根端細胞群の精密な振る舞いは,従来見逃されていた現象であり,開発手法は,根の成長を駆動する仕組みや,環境条件に応じて成長を最適化する仕組みの解明を加速するとしている。

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