名古屋大学,国立天文台,川島製作所,情報通信研究機構(NICT)は,超伝導金属であるニオブを材料に用いたミリ波電波用の導波管を開発し,超伝導状態にある導波管の伝送損失が他の一般的な金属材料の導波管に比べて,桁違いに小さいことを発見した(ニュースリリース)。
Beyond 5G/6Gで利用が見込まれる周波数100GHz以上(波長3mm以下)のミリ波・サブミリ波・テラヘルツ波帯では,一般的に導波管と呼ばれる金属管による立体伝送路が使われているが,このような高周波の電波が伝送可能な超伝導導波管の研究は,これまでほとんどなかった。
研究グループは,超伝導金属として知られるニオブを利用して導波管を製作した。1mm径のエンドミルを使って,表面の粗さが0.3μmでの加工に成功し,ミリ波帯の導波管として十分な精度を持つことも明らかになった。
この加工方法で,100GHz帯の電波が伝送できるサイズの矩形導波管を製作したが,短い導波管の伝送損失を測定器で測るのは困難なため,共振器法と呼ばれる方法を応用した。
これは,共振回路の共振特性がその回路の損失で決まることを利用したもので,導波管回路の共振特性を測れば,そこから伝送損失を見積もることができる。
今回,100GHz付近に急峻な共振特性を持つ導波管共振器をニオブ材で作り,さらに比較のために,一般的な導波管材料である金メッキされたテルル銅とアルミニウム合金でも,同じ設計の共振器を作った。
次に,常温に置かれた共振器と,これを極低温の4.8Kに冷却した場合の伝送特性を測定し,いずれの金属でも冷却することによって共振特性が変わり,共振の深さがより深くなっていることを観測した。特に,極低温で超伝導状態になったニオブの導波管回路は,常温時と比べて10,000倍以上も共振が深くなっていることが分かった。
この共振特性を電磁界シミュレーションによって再現することにより,それぞれの金属の導電率と伝送損失を算出した結果,超伝導状態にあるニオブの導電率は1.8×1011S/mと計算され,この値はアルミニウム合金や金と比べると1,000倍から10,000倍も高い値だった。
さらに超伝導状態のニオブの伝送損失は1mあたり0.05dBと計算され,これは他の金属と比べると数10分の1という非常に小さな損失となることも分かった。
研究グループは,宇宙観測用の電波望遠鏡や地球大気の環境計測装置などで,超高感度な受信システムが実現できるほか,導波管が使用される可能性が高いBeyond 5G/6G 通信システムでも,高効率な高周波情報通信の実現が期待できる成果だとしている。