情報通信研究機構(NICT)は,1本の光ファイバで世界最大の伝送容量となる22.9Pb/sの通信が可能であることを実証し,これまでの世界記録であった10.66Pb/sを2倍以上更新した(ニュースリリース)。
同社では,マルチコア方式とマルチモード方式を組み合わせた,100通り以上の光経路を有する空間多重や,商用の波長帯(C,L)と商用化されていないS波長帯のほぼ全域を活用した,合計20THzの周波数帯域を有するマルチバンド波長多重などをこれまでに実現している。
しかし,空間多重とマルチバンド波長多重の併用に関しては,4コアファイバ中心に検討が進められており,より多数の光経路を有する光ファイバ(例えば,38コア3モード)においては,伝搬に伴い各コアやモード間で生じる信号同士の干渉を分離するためのMIMO受信機をマルチバンド伝送に対応させる必要があった。
同社は,2020年に10.66Pb/s伝送を実証した38コア3モード光ファイバ伝送システムのMIMO受信機をマルチバンド伝送用に拡張することで,マルチコア・マルチモード方式による空間多重と,マルチバンド波長多重の融合に成功し,合計22.9Pb/sに及ぶ超大容量光通信の可能性を実証した。
使用した波長数は,S帯で293波,C帯とL帯で457波の合計750波で,18.8THzの周波数帯域を使用した。信号の変調には,情報量が多い偏波多重256QAM方式を使用した。ほぼ周波数帯域の等しい4コアファイバでの実験と比べ,光経路の数を28.5倍に拡大した。
その結果,コアごとに約0.3〜0.7Pb/s,全38コアの合計で22.9Pb/sの伝送容量が得られた。これは,現在の商用の光通信システムにおける伝送容量の約1,000倍に相当し,3年前の記録に比べ2倍以上の伝送容量拡大を果たした。
現在,4コアファイバの実用化が推進されているが,通信量が1,000倍になるといわれる将来に向けては光通信インフラの更なる高度化が求められ,超大容量の光ファイバを実用化していく必要がある。
この研究は,将来の超大容量な情報通信ネットワークの実現に向けた,マルチコア・マルチモード方式による空間多重技術とマルチバンド波長多重技術の併用の初実証と位置付けられるとする。
研究グループは,マルチバンド波長多重の適用範囲を,より大規模なMIMO受信機を要する結合型マルチコア光ファイバやマルチモード光ファイバへと拡張し,Beyond 5G後の光通信インフラ進化の道を築くとしている。