理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,兵庫県立大学は,自由電子レーザー(FEL)における光スリッページ現象(光が電子をすり抜けて前方へ進む現象)の観測と制御に成功した(ニュースリリース)。
FELは,加速器で生成される高エネルギー電子ビームを発振媒体とするレーザー。発振波長に原理的な制約がない一方,光スリッページ(光のすり抜け=光が電子よりもわずかに前方へ進む現象)が短パルス化を阻害する。
研究グループは2015年,光スリッページを制御し単一サイクルFEL(発光している間に光の波が1回だけ振動する光)発振を可能とする基本原理を見いだし,この方式に基づく新たなFEL光源の実用化を目指してきた。
今回,兵庫県立大学の加速器のレーストラック型の蓄積リングに,直線部に電子ビームを24回蛇行させるための周期磁場発生装置2台(上流側をモジュレータ,下流側をラディエータと呼ぶ)と,大きく1回蛇行させるための電磁石を置き,その上流側に波長800nmの近赤外短パルスレーザー(シード光)を設置した。
蓄積リングを周回する電子ビームと同期してシード光をモジュレータに入射することで,電子ビームに周期800nmで濃淡が発生する。これがラディエータを通過する際にコヒーレント光を生成することで発振する。
コヒーレント光の波長はラディエータの磁場を調整することで離散的に選択できる。コヒーレント光を精度よく計測するためにシード光を波長的に分離する必要があるのと,高調次数の増加に伴ってコヒーレント光の強度が低下するため,実験では400nm(高調次数n=2)を選択した。
研究グループは,まず光スリッページ現象を観測するために,中空ファイバ法によって圧縮したパルス長12fsのシード光を利用してコヒーレント光を生成し,スペクトルを計測した。この結果,コヒーレント光のバンド幅が7nmであることを確認した。
次に,基本原理である光スリッページ制御を実証するために,蛇行軌道の振幅が徐々に増大し,入口と出口で11%の振幅差が生じるようにモジュレータおよびラディエータを調整し,それ以外は同じ条件でコヒーレント光を生成した。
この結果,バンド幅が20nm程度に広がっていること,すなわち,パルス長の伸長が大幅に抑制されていることを確認した。
この成果は,単一サイクルFELの実用化や,X線FEL施設を利用した,未知の超高速現象の解明に貢献するものだとしている。