東北大ら,フォトニック結晶で疑似重力効果を実現

東北大学と大阪大学は,誘電体である周期構造を持つフォトニック結晶の誘電率(格子点)配列を緩やかに歪ませた「歪(ひずみ)フォトニック結晶」を用いて,テラヘルツ電磁波の伝搬方向を曲げることに成功した(ニュースリリース)。

電磁波の伝搬は,レンズに代表されるように屈折率の空間分布によって制御することができる。誘電率と透磁率の双方を制御することにより,任意の屈折率の実現を目指す人工構造体は,メタマテリアルとして盛んに研究されている。

多くのメタマテリアルは,透磁率を制御するために電磁波の波長よりも十分小さなサイズの金属など,光の損失の大きな材料によって構成されている。一方,フォトニック結晶は,異なる誘電率を有する2種類以上の材料から構成され,電磁波の波長程度の大きさの周期構造を有する。

その周期的な格子点配列が電磁波に対するフォトニックバンド構造を形成し,伝搬方向を制御することが可能。フォトニックバンド構造の高周波数側では新奇な伝搬の報告がされてきたが,その低周波数側は均一な媒質と同様な等方的な性質を有し,フォトニック結晶としての特徴に欠くため,注目されてこなかった。

研究グループは,規則正しい周期構造であるフォトニック結晶において,その格子点の位置を緩やかに変化させることで電磁波に対する時空間の歪を発現させ,疑似的な重力効果として電磁波の伝搬方向を曲げられる可能性に着目した。

そこで,均一な媒質と同様に等方的な性質が得られる低周波数領域において,フォトニック結晶の格子点を一軸に沿って,正方格子から長方格子状に緩やかに変化させた歪フォトニック結晶を考案した。このような構造を微分幾何学的なアプローチから考察すると,格子点の配列の変化が格子歪として発現し,電磁波の伝搬の軌跡はその測地線を描くことが予測される。

そこで誘電体としてのシリコンに着目し,基本周期を200μmとすることで300GHz帯のテラヘルツ電磁波に対して動作する歪フォトニック結晶を作製した。

歪フォトニック結晶へテラヘルツ電磁波を入力すると,伝搬方向の曲げに相当する出力結果が得られた。電磁界シミュレーションともよく一致したことから,歪フォトニック結晶による電磁波に対する疑似重力効果の実証に成功したとする。

この研究成果によって,規則正しい周期構造を基本として発展してきたフォトニック結晶に対し,格子歪という新しい概念を生み出すとともに,疑似重力効果が得られた。研究グループは,今後,重力場が電磁波に与える影響の検証など,基礎物理科学の発展への寄与が期待されるとしている。

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