日本電信電話(NTT)は,増幅用光ファイバに12コアを高密度に配置したマルチコア構造を用い,主要な通信波長帯であるC帯(波長1550nmの近傍)において世界で初めてマルチコア一括増幅による,伝送容量拡大と省エネルギー化を両立した(ニュースリリース)。
マルチコアファイバなどの空間分割多重技術によって,今後更なる伝送容量の拡大が期待されるが,現状の光増幅方式では伝送容量の拡大に伴い,長距離光通信で必須となる光増幅器の消費電力も増大してしまうという課題があった。
これに対し,マルチコア構造を用いた光増幅技術を適用すると,増幅用の励起光を複数コアで共有できるため,既存の単一コア構造を用いた光増幅技術に比べ省電力化が実現できると期待されていた。
従来の光増幅器(コア励起方式)では,コア単位で励起光を入射してコア内を伝搬する信号光を増幅するが,今回検討した光増幅器ではクラッド励起方式という,光ファイバ断面全体に励起光を入射して断面内の複数コアを伝搬する全ての信号光を一括で増幅する技術を用いている。
この方式では,1台の励起光用レーザーを複数のコアで共有できるため,消費電力が低減できると期待されていた。一方で,励起光が広く光ファイバ断面全体を伝搬するためコア励起方式と比較して信号光と励起光の重なりが小さく,励起光から信号光へのエネルギー移行効率が低く,その分多くの励起光パワーが必要となってしまい,期待される省電力性が得られていなかった。
今回の研究で用いた増幅用光ファイバは,伝送路光ファイバと同等のマルチコア配置を維持したまま,増幅用光ファイバの外径とコア直径を,それぞれ縮小および拡大することでコアのクラッドに対する面積比率を最大化し励起光の使用効率を最大化した。
一方,増幅用光ファイバのコアの面積比率を高めるためにクラッド直径を縮小したことにより,伝送路光ファイバと増幅用光ファイバとの接続点でクラッド直径が整合せず励起光の一部が損失する。
また,従来および提案技術のいずれにおいても,光増幅に使用されず増幅用光ファイバ伝搬後に残留し,除去されてしまう励起光が発生する。
今回の検討では,テーパー構造と反射デバイスを採用することで,励起光損失および残留励起光を低減し,さらに光増幅の効率を高めることに成功した。
これにより,従来技術に比べ消費電力を67%低減できることを世界で初めて実証し,マルチコアファイバを用いた伝送容量拡大技術に省電力化の付加価値を見出した。
研究グループは,IOWNがめざす10チャネルを超える空間分割多重伝送路の一候補として2030年目途での技術確立をめざすとしている。