東京大学と筑波大学は,気候変動の予測に重要な海洋エアロゾルの未解決問題であった脂肪酸の光吸収について,独自の超高純度精製法を開発することで脂肪酸の真の光吸収を決定することに成功した(ニュースリリース)。
「海洋表面から放出されるエアロゾル(海洋エアロゾル)」は太陽光を散乱・吸収し,さらに雲の素(凝結核)として働くことで気候に影響を与えていると考えられているが,その大きさについては正確にはわかっていない。
海洋エアロゾルには生物から排出される脂肪酸などの有機分子が濃縮して存在しており,その割合は質量にして約40%に達する。
例えば,ノナン酸は海洋エアロゾルに存在する代表的な脂肪酸であり,太陽光を吸収し光反応をおこすことで雲の素となる有機分子(アルデヒドやケトンなど)を生成すると考えられている。しかし,脂肪酸(ノナン酸)が太陽光を吸収する理由についてはよくわかっていなかった。
研究グループは,再結晶法,紫外吸収分光法(UV吸収法),核磁気共鳴分光法(NMR法)とを組み合わせることで,超高純度のノナン酸を精製し,太陽光の波長を含む幅広い波長(190-310nm)における光吸収効率(吸収断面積)を測定することに成功した。
研究ではノナン酸の精製のために独自の再結晶装置を作製し,嫌気雰囲気(酸素を含まない大気)のもと-28℃という低温条件でノナン酸の再結晶を15回にわたり繰り返すことで,極めて高純度のノナン酸を精製した。
この超高純度ノナン酸をUV吸収法によって紫外光の吸収断面積を調べたところ,過去に報告されていた240-310nmにおける光吸収は再結晶前と再結晶後で大きく異なることがわかった。
海洋表面に届く太陽光の波長は295nmより長いので,この結果は脂肪酸が太陽光をよく吸収するというこれまでの定説は誤りであり,これまでの研究で報告されてきた光吸収は実は脂肪酸ではなく,不純物に由来することがわかった。
さらに研究では,再結晶前のノナン酸試薬中の不純物を分析した。その結果,試薬には多種多様な不純物が存在し,そのなかには太陽光を吸収することが知られているケトンが含まれていることがわかった。
試薬中のケトンの濃度はわずか0.1%以下とごく微量なものの,これまでの先行研究で報告されてきた脂肪酸の光吸収は,このケトンなどの不純物によるものであったことを明らかにした。
研究グループは,今回の研究で得たこの新たな知見によって,海洋エアロゾルでおきている光反応の理解が大きく進み,気候変動の予測精度の向上に貢献することが期待されるとしている。