東京大学と東京工業大学は,ダイヤモンド量子センサを用いて超伝導体の量子渦を広視野でイメージング(可視化)することに成功した(ニュースリリース)。
カメラを用いて多数のNV中心を同時に測定する広視野イメージング手法は,短時間で膨大なデータを取得できる上に,さまざまな磁場・温度・高圧下などの極限環境でも利用できるため,従来の走査型プローブ手法では不可能であった研究が可能になると期待されてきたが,走査型プローブ手法に比べて磁場の測定精度を高くすることができなかった。
研究グループは,ダイヤモンド量子センサを用いた新技術により,超伝導薄膜内の量子渦から発生した磁場を広視野かつ高精度にイメージングすることに初めて成功した。ダイヤモンド量子センサ基板の作製手法を工夫するとともに,その不均一性の影響を軽減する新しい解析手法を開発し,銅酸化物高温超伝導体の一つであるYBa2Cu3O7−δ(YBCO)薄膜中の量子渦を様々な温度・磁場においてイメージングした。
多数のNV中心から構成されるダイヤモンド量子センサを,化学気相成長法(CVD)を用いてダイヤモンド基板(1×1×0.5mm3)上に成長させた。成膜条件を工夫することによって,NV中心の方位が基板表面に対して垂直になっている。
緑色レーザーをダイヤモンドに照射することによってNV中心から放射される赤色蛍光をCMOSカメラでイメージングした。マイクロ波を印加しながら赤色蛍光の強度を測定すると,特定のマイクロ波周波数でNV中心内の電子スピンが磁気共鳴を起こす結果,赤色蛍光の強度が減る。
この現象を光検出磁気共鳴(ODMR)と呼ぶ。共鳴が起こるマイクロ波周波数は電子スピンが感じている磁場と正確に一対一対応している。発光を観測することによって局所的な磁場を検出することができる。
これをCMOSカメラで顕微鏡の視野全体に対して行ない,多数のNV中心からのODMRスペクトルを同時に測定することによって,あたかも目で見るかのように磁場を可視化した。
多数の量子渦を同時に観測し,一つ一つ調べた結果,量子渦の磁束が量子化していることを高い精度で実証した。さらに,得られた量子渦の形状が理論モデルと整合することや,磁場侵入長の振る舞いが従来の結果と一致することから,開発した技術の正確性と幅広い適用性を証明した。
研究グループは,今回実証に成功した広視野イメージング技術は,幅広い温度・磁場範囲,高圧などの極限環境下でも有効であり,今後,高圧下における高温超伝導体への適用などの新しい超伝導体の開発や,その応用研究に役立つことが期待されるとしている。