統計数理研究所(ROIS)とダイセルは,高分子合成において広く用いられる重合反応のルールを網羅的に実装した仮想高分子生成モデル「SMiPoly」を開発し,オープンソースソフトウェアとして公開した(ニュースリリース)。
現代の日常生活や産業技術は様々な高分子材料に支えられている一方,現代社会は,環境問題やエネルギー資源問題などに直面しており,これまでにない物性・機能を有する新材料を迅速かつ効率的に開発していく必要がある。
このような背景の下,データサイエンスや人工知能の先進技術を材料開発に導入して研究開発や新材料創製の高効率化を図っていこうという機運が高まり,マテリアルズインフォマティクス(MI)という新学際領域に注目が集まった。
MIによる高分子材料探索のプロセスは,二つのステップに大別される。まずは,機械学習などを用いて,高分子材料の組成や構造的特徴から材料特性を予測するモデルを構築する。次に,このモデルを用いて仮想高分子を含む膨大な数の候補材料の特性を評価し,有望な候補を絞り込む。
ここで,仮想高分子群の質と多様性が材料開発の成否に大きな影響を与えることになる。これまでの高分子材料MIでは,構造生成器で作製した仮想高分子の合成方法が分からなかったため,専門家が経験と勘に基づき候補材料の合成可能性を評価し,試行錯誤的に構造を選別・改変しながら合成方法を設計してきた。
この工程に要する技術的困難性と時間的コストが,高分子材料MIの実践展開を妨げる大きな要因となってきた。高分子合成では,高分子鎖の構成単位分子が化学反応を介して多量体化していくことで目的の重合体を形成する。このプロセスを重合反応という。
開発した仮想高分子生成モデルに市販の原料モノマーを入力することで,適用可能な反応様式が自動的に選ばれ,計算機内での化学反応を介して高分子が重合される。生成された仮想高分子群は原理的に市販の原料モノマーで合成できる。
研究グループは,購入可能な約1,000種類の原料を用いて,約17万個の仮想高分子を生成した。この仮想高分子群は,現在の合成高分子の大部分をカバーしつつ,多様な新規高分子を含む。
研究グループは,生成された物質群を解析することで,合成可能な高分子材料の化学的特徴を理解し,それらの到達可能な材料性能の限界点を明らかにしていくとしている。また,性能限界を超えるために必要な有機合成技術を新たに創出し,次世代産業技術の礎を構築するとしている。