東北大学,スペイン バルセロナ大学,スペイン グラナ大学,独マックスプランク研究所は,大脳皮質を特徴づける「モジュール構造」をもつ神経回路を構築し,モジュール構造をもつ培養神経回路では,外部からの非同期的な入に対する感受性が上がり,神経活動の同期性を高めたり下げたりしやすくなることを明らかにした。(ニュースリリース)。
哺乳類の大脳皮質においては,複数の神経細胞が同期して活動する状態と細胞がそれぞれ個別に発火する状態の均衡が保たれていると言われている。
このような発火状態は,他の領域から受け取る信号と大脳皮質のネットワークの構造の相互関係によって制御されていると考えられるが,これを系統的に検証するための有効な実験系が存在しなかった。
研究グループは,微細加工を施したガラス基板上でラット大脳皮質の神経細胞を培養することで,様々な構造を持った神経回路を人工的に構成し,その入力応答を計測する実験系を構築した。この実験系はデジタルマイクロミラー,対物レンズ,ダイクロイックミラー等で構成される。
研究では特に,生物の脳神経系で進化的に保存されてきたモジュール構造に注目し,モジュール性が異なる3種類の培養神経回路を作製した。
視床からの入力を模した非同期信号は光遺伝学的手法により印加し,神経活動は蛍光カルシウムイメージングにより計測することで,光を使って細胞と外界の間の入出力を制御した。
実験の結果,哺乳類の大脳皮質で見られる「モジュール性」という特徴を強く持った培養神経回路ほど外部入力に対する感受性が強くなり,培養神経回路特有の過剰な同期が崩されやすくなることを明らかにした。
さらに,一連の実験結果を説明するシミュレーションモデルを構築し,入力を常時受けることによってシナプス伝達で放出される神経伝達物質が減少することが鍵になっていることを突き止めた。
現在,脳機能の神経基板の理解は,生命科学や医療だけでなく,脳型ハードウェアや人工ニューラルネットワークに代表される機械学習の開発においても重要性を増している。
この研究は生物が進化の過程で保存してきたネットワーク構造の機能的意義を明らかにするものであり,生体機能を精緻に再現した培養系モデルの構築,その医工学応用,さらには生体の特徴を工学的に活用した新しい人工ニューラルネットワークモデルの提案などへと繫がることが期待されるとしている。