国立環境研究所(NIES)は,物質フロー指標とGHG排出量に作用する経済的要因と技術的要因に着目し,各要因が物質フロー指標とGHG排出量の変化に与えた影響を分析した(ニュースリリース)。
循環型社会とは,天然資源の消費の抑制によって環境負荷の低減を図る社会。日本では循環型社会の進展状況を4つの物質フロー指標(資源生産性,最終処分量,入口側循環利用率及び出口側循環利用率)の改善によって評価している。
一方,脱炭素社会の構築においては,温室効果ガス(GHG)の排出量を実質的にゼロとすることが目標となっている。両社会を一体的に実現するには,物質フロー指標の改善がGHGの削減につながることが重要となる。
研究の結果,2011年から2015年にかけて物質フロー指標の資源生産性や循環利用率を改善した要因は,GHGの排出量削減には必ずしも寄与していないことが分かった。
この要因を更に産業部門別に細分化したところ,3割から7割の産業部門において,各部門の上流のサプライチェーン(原材料や部品の調達,輸送などを通じてもたらす間接的な産業活動)が物質フロー指標を改善したことが,逆にGHG排出量の増加を招いた要因であることを特定した。
この研究から得られる結論は,各産業部門が物質フロー指標の改善とGHG排出削減を同時に実現するためには,各企業における物質利用とGHG排出の相互関係への理解を深めることが必要だとする。
すなわち,循環型社会と脱炭素社会とを両立して促進させるためには,産業部門レベルで物質利用とGHG排出の不整合を解消する取り組みが求められる。
具体的には,各産業部門が自身の産業活動における物質利用が,サプライチェーンを介して社会全体のGHG排出にどのように影響しているかを把握できる仕組みの導入が有効だとする。
例えば,気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などの企業の炭素排出開示において,同時に物質利用に関する情報も開示するようなルール化が望まれる。
研究グループは,物質フロー管理にも企業の資金調達に対するインセンティブを発生させることで,企業が物質フローと炭素排出の情報開示を自発的に行なう体制の構築を促すことが重要としている。