産業技術総合研究所(産総研),東京大学,宮崎大学,信州大学は,太陽光を利用して水を高い効率で分解して酸素を生成できる赤色透明な光電極の開発に成功し,世界トップレベルの太陽光-水素変換効率(STH)10%を達成した(ニュースリリース)。
光触媒を用いることで,太陽光エネルギーで水の分解を行ない、水素と酸素を生成することが可能となる。この手法で製造される水素は,再生可能エネルギーである太陽光を利用した「グリーン水素」であり,次世代クリーンエネルギーとして期待されている。
安価なグリーン水素製造のためには,光触媒の太陽光−水素変換効率(STH)の向上が課題になる。従来,水分解光触媒でSTH10%を超えるのは困難と考えられていた。
研究グループは,波長1100nmまでの光を吸収可能なCuInSe2太陽電池に水素生成用のPt/Ni電極触媒を接続し,酸素生成用光電極と組み合わせ,水分解用タンデム型セルを構築してSTH5.5%を達成している。
しかし,酸素生成用の窒化タンタル光電極が出力する光電流は,理論的に導かれる最大値の50%程度であったことと水の分解反応中に短時間で光電流値が半減するため,酸素生成用光電極としての電極性能向上と長寿命化が課題とされた。
そこで,斜入射スパッタリング法(GLAD法)での成膜条件およびアンモニアガス雰囲気下での窒化反応条件を検討し,高い光透過率と高い酸素生成活性を両立する赤色透明なナノロッド状窒化タンタル光電極の開発に成功した。
この赤色透明なナノロッド状の窒化タンタル光電極の表面に,鉄-ニッケル-コバルト系複合酸化物(FeNiCoOx)からなる酸素生成用の助触媒を修飾して支持電解質水溶液に浸漬し,外部電源から電位を印加した状態で疑似太陽光を照射すると,光電極上で水の酸化反応が起こり,酸素が生成される。
また,光電着法とディップコーティング法を組み合わせた表面修飾法を用いることで,鉄-ニッケル-コバルト系複合酸化物(FeNiCoOx)からなる酸素生成用の助触媒をナノロッド状窒化タンタルの表面に均一にコーティングし,表面絶縁膜の形成を阻害することに成功した。
その結果,酸素生成反応中における耐久性が従来よりも約27倍に向上し,反応開始から3時間以上にわたって劣化することなく酸素を生成することができた。
研究グループは,この研究で得られた科学的知見を基に,グリーンイノベーション基金事業の一環として,より安価に水素製造が可能となる粉末型光触媒シートを開発し,太陽光エネルギー変換効率の向上および光触媒を用いた水素製造技術の社会実装を目指すとしている。