筑波大学は,側鎖に安定なラジカルを持つポリチオフェンを,キラル(鏡像異性)でヘリカル(らせん状)な構造の液晶中で合成した(ニュースリリース)。
導電性高分子は無機物を含まない導電体(合成金属)として注目を集めてきた。導電性高分子の前駆体である共役系高分子は,導電性のみならず,発光や光の回転・吸収といった性質を付与した,無機材料に代わる新しい光学材料としての開発も進められているが,その磁性については,まだ研究が進んでいない。
研究グループは,磁性高分子の新しい合成法について探索しており,これまでに,液晶中での化学合成により,光学不活性なモノマーから光学活性な共役系高分子が得られることを見いだしている。そこで今回,ヘリカル磁性を持つ有機高分子の合成を行なった。
まず,側鎖にフェノキシラジカルを含むオリゴチオフェンをモノマーとして,ヘリカル構造を持つコレステリック液晶中で電解重合することにより,有機ラジカルを有するポリチオフェンを合成した。
さらに,同じモノマーについて,超伝導マグネットを用い磁束密度6テスラ下で,液晶磁場電解重合注を行なったところ,磁場方向に配向したヘリカル液晶マトリックス中で重合が進行し,磁気ドメイン様ヘリカルストライプが観察された。
電気化学的測定により,主鎖の電荷担体として,フェノキシラジカルとポーラロン(導電性高分子の電荷キャリヤー)が,それぞれ生成していることが確認された。さらに電子スピン共鳴分光測定から,高分子の側鎖のスピン源であるフェノキシラジカル(g 値:2.00415)が確認された。また分光学的測定により,側鎖のスピンも光学活性なヘリカル状態にあることが分かった。
このポリチオフェンのフィルムは,表面観察と磁気分光測定から,配向した擬ドメイン構造を持つヘリカルスピンポリマーであり,磁気・電気・光学的活性を示すことが明らかになった。この研究成果は,有機キラル磁石や分子スピンエレクトロニクスの発展に新しいアプローチを提供する。
今回合成したポリチオフェンについて,外部磁場による磁化率の変化と光学活性の関係を調べるとともに,今後さらに,磁気光学活性プラスチック材料の開発を進める予定。磁気現象は,生体内にも心拍や脳波などにより生じており,また、伝書バトやウナギなどは,脳内に磁気を感知するセンサーがあると言われている。
研究グループは,これらは,ヘリカル構造を持つタンパク質と関連するとも考えられることから,この研究は,有機高分子から無機物質の磁性に迫るとともに,生体の磁気現象を解明するための材料となる可能性があるとしている。