理化学研究所(理研)は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」で得られた多くの出芽酵母細胞核の投影像から核内染色体分布を可視化するとともに,150nm程度のサブ構造がフラクタル性をもって配列し,染色体を形作っていることを見いだした(ニュースリリース)。
X線の透過性を利用し,試料の放射線損傷を大幅に低減できる「低温X線回折イメージング・トモグラフィー法」は,大きな細胞を数十nmの解像度で観察できる。しかし,1個の細胞の測定に2日間程度を要するため,多数の細胞核の測定には適していない。
X線回折イメージング法では,非結晶試料粒子に波面のそろったX線を照射して回折パターンを取得し,それに位相回復アルゴリズムを用いて,粒子のX線入射方向に対する投影像を取得する。
XFEL施設SACLAでは,30Hzで超高強度のXFELパルスを用いることができる。XFELパルス照射後に試料が原子レベルで壊れるものの,短時間で多数の細胞核のX線回折パターンが得られる。
研究グループは,細胞周期をそろえた細胞や細胞内小器官を試料板に散布・水和凍結し,ほぼ生の状態に保った試料粒子にXFELパルスをもれなく照射することを可能とした低温試料高速照射装置「高砂六号」を開発して,SACLAでのX線回折イメージング実験に用いてきた。
今回,水和凍結された間期酵母細胞核の平均的な形状とサイズを,25nm分解能までの回折パターンから位相回復アルゴリズムによって得た投影電子密度図から知ることができた。
そこから,コアは16本の染色体の末端領域が集まった領域であり,繊維状や束状の電子密度は,長いDNAで構成された染色体やそれが隣接したものではないかと推察された。また,100~150nmサイズの塊は,染色体を構成する何らかのサブ構造と考えられた。
回折パターンを円環平均後に足し合わて回折プロファイルを計算し,間期細胞核内における普遍的な構造の有無を調べた。得られたプロファイルには,何らかの規則的な配列を示唆する回折ピークがなく,染色体内には特別な規則構造が存在しないことが明らかになった。
また,染色体には,最大3,000個のヌクレオソームを収納できる大きさ150nm程度のサブ構造体の存在が示唆された。さらに,自己相似的配置と投影電子密度図を併せて考えると,サブ構造体が自己相似的なリヒテンベルク図形に似た空間配置を取るモデルが想起された。
研究グループは,X線回折イメージング実験が細胞核内の染色体超構造を非侵襲で調べるのに適していることを示すとともに,染色体構造の成り立ちがフラクタルと関連した超構造ともいえる特徴を見いだしたとしている。