東大ら,室温以上で金属化する有機伝導体を開発

東京大学,分子科学研究所,リガクは,導電性高分子をモデルとした室温以上で金属状態を示す新種のオリゴマー型有機伝導体の開発に成功した(ニュースリリース)。

現在,工業的に実用化されている伝導体の主流は,ドープ型PEDOTなどの導電性高分子材料である。高分子は合成がしやすく,優れた電気伝導性を示すが,詳細な構造や伝導メカニズムの情報を得ることが困難だった。

一方,基礎研究のなかで発展してきた低分子材料は,明確な構造情報を入手できるが,伝導性を担うπ共役系の拡張可能な範囲が比較的狭く,伝導性の広範囲かつ緻密な制御には至っていない。

研究グループは,高分子と低分子の間に位置するオリゴマー材料に着目し,2021年にドープ型PEDOTの単結晶モデルとして,最短の2量体オリゴマー型伝導体を報告した。しかし,その伝導度は10-3–10-5 S cm-1と低く,2量体という共役系サイズの狭さがその要因と考えた。

このため,分子鎖の伸長による共役系の拡張効果や電子状態の変調効果を検証したが,鎖が伸長するにつれ中性のドナー自体が溶解しにくく,また酸化に対して不安定になってしまうという合成上の問題に直面した。

そこで,溶解性補助などの特徴ある機能を持つ複数のユニットを効果的に並べた配列構造を導入する戦略を着想した。

数々の配列を精査するなか,2種類のユニットを組み合わせたP–S–S–Pという4量体の配列では,中央に嵩高いSユニットが連続(S–S)することで,分子自体が捻れてπ共役系が分断され,ドナー分子の溶解性と安定性が大幅に向上することに気がついた。

ドナーの捻れた構造はドナーを酸化(電子放出)して有機伝導体とする際には解消され,π積層を阻害しない平面構造へと変化した。酸化反応によりプラスの電荷を帯びたドナーは,-1価の陰イオン(アニオン)と1:1の比で対をなして積層し,ドナーが傾斜してπ積層したハの字型積層構造を示した。

その電子構造は擬一次元的で,以前の一次元的な電子構造と比べて高次元化していた。この積層構造には柱状の隙間が残っており,予想外にもそこに0.2分子分の余剰のアニオンが含まれていた。このことは電子構造が半充填状態から逸脱していることを意味し,優れた伝導性を予感させた。

実際にその室温伝導度は,同じアニオンを持つ2量体の時と比べて6桁も上昇し,36Scm–1というオリゴマー有機伝導体の中でトップクラスの数値だった。この伝導体は,室温以上では,金属的な電子状態までも示した。

研究グループは,有機電子デバイス開発の技術革新をもたらす成果だとしている。

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