東京大学と中国Nanjing University,米Princeton University,米University of California at Berkeleyは,2種類の異なる二次元結晶(二セレン化タングステン(WSe2)とリン化ケイ素(SiP))を重ねて作製した界面に円偏光を照射することで,界面の特定の方向にスピン偏極した光電流が流れることを発見した(ニュースリリース)。
三次元層状物質を剥離して得られる数原子層からなる二次元結晶は,貼り合わせる物質の種類に関係なく自在に重ねて界面を作製することができ,元の二次元結晶にはない特徴的構造とそれを反映した物性や機能性の開拓が可能になる。
研究では,異なる結晶構造を持った二次元結晶である,二セレン化タングステン(WSe2)とリン化ケイ素(SiP)を重ねることで,対称性が低下した二次元結晶界面を作製した。WSe2とSiPには回転対称性や複数の鏡像対称性が存在しているが,それらを重ねることで生じる界面(WSe2/SiP界面)では回転対称性が消失して1つの鏡像対称性のみが存在する。
この界面に流れる光電流を照射光の偏光を変化させながら調べたところ,鏡像面に垂直な方向に円偏光に依存する光電流の成分が観測された。一方,鏡像面と平行な方向にはそのような応答は見られなかった。
WSe2に円偏光を照射するとスピン偏極したキャリアが生成されることが知られており,この結果はスピン偏極キャリアが鏡像面に垂直な方向に整流されて,円偏光に依存する光電流として観測されていることを示唆するという。
さらに磁性体電極を用いたデバイスによる測定も行ない,実際に光電流がスピン偏極していることも明らかにした。また,円偏光に依存する光電流成分の照射光波長依存性等を詳細に調べることにより,観測された光電流が電子の幾何学的性質を反映した量子力学的機構によって説明できることを見出した。
これにより,二次元物質の組み合わせを最適化することによってスピン偏極した光電流の巨大化が見込まれると同時に,より複雑なデバイス構造と組み合わせることによりさらに高度な光スピントロニクス機能の実現が期待されるという。
また,この成果は,二次元結晶界面の対称性を制御することでスピンをはじめとするさまざまな量子力学的自由度を制御できる可能性を示しており,研究グループは,今後このような二次元結晶界面の対称性制御に立脚した多彩な量子機能性の開拓が進むと予想している。