名古屋大学,国立天文台,東京理科大学,広島大学,埼玉大学,JAXA,都立大学,オランダ宇宙科学研究所,東邦大学は,欧州のX線天文衛星「XMM-Newton」のデータを解析し,近傍に存在する衝突銀河団CIZA J1358.9-4750でまさに生まれたての衝撃波の「縦・横・奥行き」と衝突速度の推定に成功し,その巨大な衝撃波の中で2.3×1038Wものエネルギーが解放されていることを確認した(ニュースリリース)。
銀河団は宇宙最大の天体種族で,明るいX線を放射する大量の高温ガスを纏っている。銀河団同士の衝突は宇宙最大規模の天体現象で,300万光年四方という巨大な衝撃波が発生する。
これにより高温ガスに莫大なエネルギーが注入され,ガスの加熱や粒子加速・磁場の増幅などの非熱的エネルギーに変換される。この衝撃波を通じた運動エネルギーの各現象へのエネルギー変換率を知ることは,いま観測できる高温ガスから過去の成長の経緯を知る上で重要な意義を持つ。
しかしながら,宇宙観測では深さ方向の測定が容易ではなく,衝突銀河団の多くは互いのガスが激しく混ざり合っているため,衝突がいつどのような状態で起こったのかというのが特定するのが難しく,未だに解明されていない。
そこで研究グループは,まだ発見例の少ない衝突がはじまったばかりで,構造が単純な銀河団,CIZA1359を調べることで,これまでわからなかった宇宙最大規模の衝撃波で消費されるエネルギーが推定できると考えた。
そこで,X線天文衛星「すざく」と比較して,20倍ほど感度の高い欧州のX線天文衛星「XMM-Newton」のデータを用いて,CIZA1359の衝突構造を調べた。
天文学では一般に天体の「奥行き」を測定することは難しいが,研究では,,の銀河団が「衝突したて」であることを生かして解析を工夫し,「奥行き」を求めた。高温ガスの温度分布から衝撃波の衝突速度を求め,「縦・横・奥行き」と掛け合わせることで,そこで運動エネルギーから熱エネルギーや粒子加速,磁場増幅に変換されるエネルギー量を求めることに成功した。
また,国立天文台の研究グループは,電波観測により粒子加速と磁場増幅で生じる「シンクロトロン電波」を発見し,これが3.5×1033Wの電場放射をしていることを確認した。これにより,その変換効率が約10-5と求まった。
研究グループは,これをきっかけに変換効率の分布を知ることで,宇宙最大の衝撃波の中で何が起きているのかを明らかにしていくとしている。