産業技術総合研究所(産総研),独フラウンホーファー研究機構,米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)はワークショップを開催,テラワット単位の太陽光発電が普及する時代を迎え,気候変動を十分抑えるために必要な普及量を目指す上で必要な事柄を検討し,論文としてまとめた(ニュースリリース)。
気候変動の影響が顕在化する中,太陽光発電の普及をいかにスムーズに進めるかが,持続的社会の実現の鍵を握ると考えられている。
世界の太陽光発電累積導入設備量は2022年末で約1.1テラワットと大台に乗った。世界の発電電力量に占めるシェアは4~5%程度だが,市場成長率にして年25%前後,約3年ごとに2倍になるペースで拡大しており,比較的低コストかつ短期間で普及可能な,数少ない技術だとする。
持続的な世界を目指すに当たっては,温暖化ガスの排出を減らすのと並行して,自動車・飛行機・船等の輸送手段や,工業プロセス等の電化に対する再エネ電力需要も拡大が見込まれ,太陽光発電はその需要にも対応が求められている。
世界の温室効果ガス排出量を2050年時点で十分に減らすのに必要にな太陽光発電の導入設備量の想定はシナリオによって幅があるが,研究グループは挑戦的だが実現可能と思われる値として75TWの導入設備量を想定し,必要な普及速度の目安や,実現までの課題や留意事項をまとめた。
太陽光発電は近年,年25%前後の市場成長率を記録しており,この市場成長率を10年ほど継続すると,年間約3.4TWの年間導入設備量となる。その後は同じ年間導入設備量を維持することで,2050年に75TWに達するシナリオが想定できるという。
論文ではこのようなシナリオをスムーズに実現するための課題や留意点として,公的機関,企業,行政府やシンクタンクなどの持つデータや見解,学術的な知見を集約した結果,下記のような事項を指摘した。
・今後10年のうちに規模を拡大しておく。
・インフラの計画は前向き,かつ積極的に行なう。
・大量の太陽光発電を導入していく過程では挑戦的な課題も発生するが,複数の戦略を活用して解決に取り組む。
・最新のシミュレーションモデルや将来のエネルギー供給システムの検討結果,太陽光発電が大きなシェアを担う。
・関連機器の生産拠点は分散させるべき。
・発展途上国や新興国のエネルギーシステム拡大は太陽光発電が第一の選択肢。
・リサイクルを促進する取り組みは今すぐ拡大。
・変換効率向上やエネルギー使用量削減等に関する継続的なイノベーションも必要。
・蓄電や(水素用の)電解装置の規模拡大も必要。
・建材一体型太陽光発電(BIPV)や電気自動車の充電,ソーラーシェアリング(agriPV)等の新しい利用形態も有用。
・水素,合成燃料,原料等を持続的な形で製造するには,太陽光発電や風力発電の大規模な普及が必須。
・次の10年間が決定的。気候変動や大気汚染に起因するコストを踏まえ,幅広い電化を進め,古すぎる想定を排し,素早い変化への対応が必要。
研究グループは,こうした挑戦的な課題への対応を進めつつ,現在の市場成長率を当面維持することで,世界のエネルギー供給体制を持続的なものに変革していくにあたり,太陽光発電がその決定的な役割を果たせるとしている。