神戸大学の研究グループは,円偏光状態の近接場を形成できる球状ナノアンテナの開発に成功した(ニュースリリース)。
キラル分子の左右円偏光に対する光吸収強度の違い(円二色性)を利用する検出法や光反応があるが,分析には高濃度のサンプルと長い測定時間を要する。これは,円偏光の螺旋のピッチに対するキラル分子のサイズが小さいため,左右円偏光の吸収差が非常に小さいことが原因。
円二色性を増大するために,光波長より小さいナノスケールの領域で円偏光の増強場を実現する技術が求められている。円偏光の増強場の指標である「光キラリティ」は,電場・磁場をともに増強し,入射円偏光の回転方向(ヘリシティ)が保存されるときに最大になる。
しかしながら,従来のナノアンテナ(例えば局在表面プラズモン共鳴をもつ金属のナノアンテナ)は,入射電場とは共鳴するが入射磁場に対する応答が小さいため,ヘリシティが保存されない。そのため,電場,磁場ともに共鳴する新しいタイプのナノアンテナの開発が求められていた。
研究では,高い屈折率を持つ誘電体のナノ粒子のMie共鳴に着目。Mie共鳴には電気双極子共鳴と磁気双極子共鳴があり,光の周波数領域に低次のMie共鳴をもつ誘電体ナノ粒子は,入射電場と入射磁場を両方増強することができる。
このようなナノ粒子は電磁気対称性があり,“dual”なナノアンテナと呼ぶことができる。“dual”なナノアンテナは,ナノアンテナ自体はアキラルな構造であるにも関わらず,2つの共鳴により光キラリティを増大できる。このとき,共鳴による散乱光は入射光のヘリシティ(円偏光の回転方向)を保持する。
研究では,可視~近赤外領域にMie共鳴を有し,電磁場増強と円偏光状態の保持を両立できる新しいタイプのナノアンテナを開発した。
はじめにMie理論によりシリコンナノ粒子の光学共鳴のヘリシティ密度を計算し,電気双極子と磁気双極子共鳴の強度および位相が等しくなるKerker条件において,入射円偏光のヘリシティが保存され,円偏光の近接場が形成できることを示した。
この特性を実証するために、研究グループは独自に開発した結晶シリコンナノ粒子のコロイド溶液に円偏光を照射し,波長550~750nmの領域で,入射円偏光のヘリシティ保存が可能である事を実証した。
円偏光の近接場では,キラル分子と光の相互作用を増大することができる。これにより,キラル分子の円二色性が増強され,高感度な検出・分析が可能になるだけでなく,光不斉反応の効率を高めることで,製薬分野への応用も期待できるという。
さらに研究グループは,開発したナノ粒子溶液は光の偏光状態を制御できる液体として期待できるとしている。