神大ら,世界最高性能の望遠鏡でガンマ線の観測開始

神戸大学と名古屋大学は,「世界最高角度分解能」「世界初偏光有感」「世界最大口径面積」を実現するエマルション望遠鏡気球実験を達成し,宇宙高エネルギーガンマ線の精密観測を開始した(ニュースリリース)。

宇宙ガンマ線観測は,宇宙線物理学・高エネルギー天体物理学・宇宙論・基礎物理学と多岐にわたる学術領域に波及効果をもたらす。また近年のニュートリノや重力波も含めたマルチメッセンジャー天文学においてガンマ線は決定的に重要なパートを担う。

現在,フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡をはじめとする最新鋭のガンマ線望遠鏡によって,高エネルギー帯域における宇宙ガンマ線観測は大きく進展している。

その一方で観測の難しさから,他波長での観測に比べ桁違いに解像度が劣るなどの課題があり,この帯域における観測はまだまだ未開拓な領域が存在する。宇宙高エネルギーガンマ線観測を新たな段階へ進めるためには,観測の質的な改善が重要となっている。

優れた空間分解能を持つエマルションフィルムにより,高エネルギーガンマ線の反応を極めて緻密に捉えられる。そして超高速自動解析技術および時刻情報付与技術を導入することによって,「世界最高角度分解能」「世界初偏光有感」「世界最大口径面積」を実現する優れたガンマ線望遠鏡に成り得る。

研究グループは,エマルションガンマ線望遠鏡を開発し,長時間気球飛翔を繰り返すことで宇宙高エネルギーガンマ線精密観測を目指し,GRAINE計画と名づけ推し進めている。これまでに地上での様々な研究開発やテスト実験を積み重ね,エマルション望遠鏡による気球飛翔での宇宙高エネルギーガンマ線観測の実現可能性を拓いてきた。

特に2018年気球実験では,実際に既知の明るいガンマ線源である「ほ」座パルサーについて世界最高解像度での撮像に成功し,世界最高角度分解能を実現するエマルション望遠鏡を確立した。これらの経験・実績に基づいて,口径面積・飛翔時間の拡大を図り,気球飛翔を繰り返すことで本格的な科学観測を開始していく。

その先駆けとなる気球実験を2023年にオーストラリアで行なう(JAXA豪州気球実験)。この気球実験では前回実験の6.6倍となる口径面積2.5m2の望遠鏡の実現を目指す。

研究グループは,世界最大口径面積となるガンマ線望遠鏡の実現を目指すとともに,世界初となる高エネルギーガンマ線偏光観測に向けた「ほ」座パルサーのさらなる観測,発生源不明なガンマ線源が存在する銀河中心領域の高解像度観測,ニュートリノや重力波の発生源にもなり得る突発ガンマ線源の観測等を開始するとしている。

その他関連ニュース

  • 早大ら,110億年前の銀河団の星形成終焉過程を観測 2024年12月18日
  • 名市大ら,巨大ブラックホールの活動期入りを検出 2024年12月16日
  • 電通大ら,写真で青い低緯度オーロラの出現場所推定 2024年12月06日
  • JAXA,大質量星とブラックホール候補のガスを観測 2024年11月29日
  • 公大,1台のカメラで薄膜の皺の大きさを測定 2024年11月22日
  • 国立極地研究所ら,日本出現のオーロラ色の謎を解明 2024年10月31日
  • 広島大,暗黒物質に関する新しい観測手法を提案 2024年10月03日
  • 三菱電機,宇宙光通信モジュールの軌道実証に成功 2024年09月30日