東北大学の研究グループは,世界で始めて電波の反射方向を動的制御可能な60GHz帯向け多素子IRS(Intelligent Reflecting Surface)を用いた実証実験に成功した(ニュースリリース)。
5G以降の無線通信においては,ミリ波やテラヘルツ波といった高周波数帯の電波を利用した通信の活用が見込まれているが,高周波数帯の電波は直進性が高く障害物に遮られるため,建物や壁などの陰には届きづらいという弱点がある。
そこで,IRSと呼ばれる電波の反射板の検討が進められている。IRSはメタ原子と呼ばれる微小な構造体を平面的に集積した反射板であり,各メタ原子の反射特性を変更することで,IRSに入射した電波の反射方向を任意の方向に制御することが可能となる。これにより,高周波数帯の弱点である障害物などを迂回して電波を届けることが可能になる。
またIRSは基地局やリピータに比べ安価かつ低消費電力であるため,低コストでのネットワーク拡張に寄与する。さらに,IRSは屋内なら壁や天井,屋外ならビルの壁面や信号機など,設置場所の柔軟性が高く,景観に配慮した整備にも適している。
今回,研究グループは,超高速無線LANに利用される60GHz帯の電波の反射方向を制御可能なIRSを利用した実証実験に成功した。今回利用したIRSは縦横80素子ずつが並ぶ構成で合計6400素子からなる。
60GHz帯に対応し,このように多素子からなり電波の反射方向を外部から制御可能なIRSを用いた電波反射実験の成功は世界初だという。今回の実験では,IRSに対して正面方向から入射した電波を30°及び45°方向にそれぞれ反射するよう設定変更しながら,その受信電力を計測した。
両実験において所望方向において高い受信電力が計測されることを確認し,IRSが指定した方向に電波を反射させていることを確認した。
研究グループは今回,60GHz帯において多素子IRSを利用することで電波を所望の方向へ反射制御可能であることを確認した。今後はより現実に近い環境下での実験,例えば屋外においてビルの陰に対して映像を伝送する,などの実験を予定しているという。
またこのIRSを実環境においてより効率的に利用するために,時々刻々と変化する周辺の環境やユーザからの要求に対して動的に反射方向などを制御するための制御方式の開発を実施する。
これにより,Beyond 5Gの時代にあらゆる場所,時間で,今後登場するより高度なアプリケーションを自由に利用可能な世界を実現する通信環境の提供を目指すとしている。