阪大,水と空気で次亜塩素酸を合成する可視光光触媒

大阪大学の研究グループは,可視光照射下,塩水と空気を原料として非常に高い次亜塩素酸(HClO)生成活性を示す,Au/AgCl光触媒を開発した(ニュースリリース)。

殺菌剤・漂白剤として不可欠な化学物質であるHClOの製造は,膨大な電気エネルギーを必要とする。これに対して,光触媒反応では,Clの酸化とそれに続く水分子との不均化反応,およびO2分子の還元により,原理的には塩水と空気から太陽光エネルギーを用いてHClOを合成できる。

しかし,Clの酸化には大きなエネルギーが必要なため,通常は,紫外光により励起する光触媒を使う必要があるが,生成したHClOは紫外光を吸収して分解してしまい,十分な殺菌力・漂白力をもつ高濃度のHClO溶液を合成することは困難だった。

研究グループではこれまで,金(Au)をはじめとする金属ナノ粒子が可視光を吸収して活性化する局在表面プラズモン共鳴にもとづいた光触媒開発を進めてきた。そして今回,Cl含有半導体である塩化銀(AgCl)にAu粒子を担持したAu/AgCl光触媒を開発した。

この粉末触媒を塩水に懸濁させ,空気流通下で可視光を照射することにより,十分な殺菌力・漂白力を有するHClO溶液を合成できることを見出した。

触媒上のAu粒子が可視光を吸収することにより活性化され,ホットホール(h+)とホットエレクトロン(e)を生成する。eはO2を還元して水を生成する一方,h+は隣接するAgClの骨格Clを酸化してCl2を生成する。骨格ClはAg+と強く相互作用しているため,溶液中のClよりも酸化されやすく,この反応は効率よく進む。

生成したCl2はすぐに水分子との不均化反応によりHCloを生成する。また,失われた骨格Clは溶液から補填される。このような,骨格Clの酸化と溶液からの補填が繰り返し起こることにより触媒的にHClOが生成する。

塩水(550mM NaCl溶液)にAu/AgCl触媒を懸濁させ,空気を流通させながら疑似太陽光を照射すると,溶液中のHClO濃度は照射時間に対して直線的に増加する。24時間の光照射を行なった場合のHClO濃度は38ppmで,世界保健機関(WHO)が推奨する,飲料水の殺菌に使用すべきHClO濃度(3ppm以上)を大幅に上回るとともに,十分に殺菌・漂白作用があることも分かった。

これにより,HClO溶液を,使いたい場所で使いたい量だけ塩水から簡便に合成するオンデマンド合成が可能となり,研究グループは,小型HClO製造デバイスなどの社会実装が期待できるとしている。

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