量子科学技術研究開発機構(QST)は,ナノテラス線型加速器で3GeV(ギガ電子ボルト)電子加速に成功した(ニュースリリース)。
光速に近い速度で走る電子が磁石等でその軌道を曲げられたときに発生する,非常に輝度の高い「放射光」X線利用は1990年代に本格化した。ナノテラスは物質や生命の機能をナノレベルで可視化し,学術及び産業界における研究開発の仮設検証サイクルの促進に貢献する「巨大な顕微鏡」として期待されている。
基礎科学から産業利用まで軟X線での観察が必要な対象が増大している中,世界最高レベルのナノテラスを整備することで,これらを日本がリードすることを目指して,軟X線に強みを持つ3GeV高輝度放射光施設の整備を官民地域パートナーシップで推進することが決まった。
ナノテラスは電子を3GeVまで加速する長さ110mの線型加速器と電子を蓄積しX線を発生する周長349mの円形加速器で構成される。今回,高性能電子源から高密度電子ビームを生成し,長さ2mのCバンド加速管40本に通して電子ビーム加速調整を進めてきた。そして,当初計画よりも1ヵ月早い4月27日,最下流のビーム診断装置を用いてエネルギー3GeV電子加速を確認した。
これは,ナノテラス用に独自開発した電子源や加速管など主要機器を計画的に開発・製作・試験を進めた上で,ビーム調整時に重要となる100μm以下の高精度の調整技術、光速に近い電子ビームと高周波加速電場を300fs(3兆分の1秒)以下で合わせる高精度タイミング制御技術等の開発を入念に進めて来たことが今回の成果に繋がったもの。
さらに,従来の加速器施設で使われる加速管の2倍の加速周波数を持つCバンド加速管を採用することで,全長を半分程度に短縮し,大幅なコンパクト化と建設コスト削減も達成した。
線型加速器による3GeV電子ビーム加速成功は,目標の電子ビームエネルギー性能を達成する大きなマイルストーンであり,より高精度のビーム調整が要求される円型加速器の試験に活かすことで,令和6年度から予定されているナノテラスの運用開始に目処を付ける意義ある成果だとする。
研究グループは今後,より安定に電子ビーム入射が出来るように線型加速器の調整を進め,本年6月以降に円型加速器への電子ビーム入射及び蓄積試験の開始を予定している。