東工大ら,高速酸素脱離反応を可視化

東京工業大学,高輝度光科学研究センター,京都工芸繊維大学は,大型放射光施設SPring-8を利用して,酸素貯蔵材料として有望な鉄酸化物の高速な酸素脱離反応を100ミリ秒間隔で連続撮影し,その中間状態の構造を可視化することに成功した(ニュースリリース)。

酸化物などの固体における化学反応は,その反応温度が高いこと,また不均一性などを含み複雑であることから,反応を追跡することが一般的に難しく,理解があまり進んでいない。

研究では「トポケミカル反応」に注目した。この反応は,反応前後で基本となる構造は変化せず,一部の原子のみを出し入れしたり組み替えたりするような反応を指す。これまで,研究グループはこの反応に注目し,層状ペロブスカイト鉄酸化物Sr3Fe2O7-δ(δは酸素欠損量)という物質が自動車の排ガス浄化などに利用される酸素貯蔵材料として有望であることを明らかにしてきた。

この物質では,ガス雰囲気制御によって大量の酸素を高速に脱挿入できる。ただし,そうした高速で起こる反応がどのような中間体を経ているのかは,これまで分かっていなかった。

研究では,大型放射光施設SPring-8の放射光X線回折装置を用いて,Sr3Fe2O7-δの高速な酸素脱離反応を100ミリ秒間隔で連続撮影し,その中間状態の構造を可視化することに成功した。

測定では,粉末試料を導入したガラス管をガス雰囲気が制御可能な装置と接続した。試料を真空雰囲気中で500℃に熱し,測定開始3秒後に水素ガスを導入することで,100ミリ秒ごとの試料の構造の変化を追跡した。

この条件での酸素脱離反応は,通常の試料では反応完了に30秒程度要するが,今回の研究で,試料表面にパラジウムをごく微量担持することによって,反応が劇的に加速し,数秒で反応が完了することが明らかになった。

さらに,反応の速度が加速することによって,反応の経路が大きく変化することを発見した。具体的には,パラジウムを担持した試料では,反応が高速化することによって,無担持試料では確認できなかった、酸素欠陥が無秩序に分布する動的な中間状態が存在することを初めて確認した。

今回,SPring-8が持つ高輝度な放射光と高度に電子制御された測定系を駆使し,ガス反応系のX線回折測定では,初めてサブ秒オーダーの連続撮影に成功した。また,自動車の排ガス浄化などに利用される酸素貯蔵材料の高速酸素脱挿入の機構を解明した。

研究グループはこの成果が,さまざまな革新的な機能性材料の開発に向けて,各種反応の最適化や物質の構造設計にも役立つことが期待されるとしている。

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