東京大学と中国復旦大学は,ガラス状態のモデル系として、磁石の円盤からなる2次元のモデル系を用い,それに磁場により摂動を与えることで,ガラス固体の内部の粒子の運動のメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。
液体を十分ゆっくり冷却すると結晶になるが,ある程度以上の速度で冷却すると不規則な粒子配置のまま固まったガラス状態の固体が形成される。結晶もガラスも固体的な性質を示し,固体材料として広く用いられている。
しかし,ガラスは熱平衡状態にある結晶に比べ不安定で,長時間の間にその寸法や硬さなどの性質が変化する,いわゆるエイジングと呼ばれる現象が起きたり,時には脱硝と呼ばれるガラス状態からの結晶化が起きたりする。
つまり,ガラス状態においては,液体で見られるような粒子の位置が大きく変わるような運動(構造緩和またはα緩和と呼ばれる)は抑制されているものの,微小なスケールでの内部運動(遅いβ緩和と呼ばれる)が残っていると考えられる。
しかし,後者は,微小なスケールで起きるわずかな運動であるため,その詳細は謎だった。そこで研究グループは,磁場により粒子運動を誘起することができる2次元の磁石の円盤からなる粉体系をモデル系として用い,その内部運動を長時間観察することで,ガラスの内部緩和の素過程を直接可視化することに成功した。
その結果,ガラス転移に近づくにつれ,粒子間に固い結合が生まれることで粒子が周りの粒子に囲まれた状態から脱出する「カゴ破りの運動」が凍結されるものの,このような固い結合による力学的制限のもとで別の粒子運動モードが出現することを発見した。
このように,液体状態には存在しない固い力学的粒子間結合の出現が,構造緩和を凍結させながらも,構造の不規則性のため完全な運動の凍結には至らず,粒子に運動の余地が残ることになる。このゆっくりとした運動が,長年の謎であった遅いβ緩和をもたらす起源である可能性が示された。
また,粒子間の相互作用のタイプが,この遅いβ緩和に大きく影響することも明らかにした。相互作用が,短い距離にしか及ばない剛体的な場合には,遅いβ緩和が抑制され,長い距離まで及ぶソフトな場合には,明確な遅いβ緩和が観測されることが示された。
この結果は,すべての結合が力学的に拘束される結晶化とは異なり,無秩序な粒子配置を保ったまま構造が凍結するガラス化は,力学的自己組織化の結果,固い粒子間結合の形成とそのパーコレーションにより固体的な弾性が出現するものの,拘束されていない結合が残っているため,ゆっくりとした内部運動である遅いβ緩和の余地が残ることがわかった。
この成果は,ガラス状固体の内部緩和の物理的性質に関する新たな基礎的な知見を提供するとともに,ガラスの新材料の開発につながることが期待されるとしている。