東京大学と国立天文台らの研究グループは,日除けを搭載したスターリンク衛星,バイザーサットの太陽光反射低減効果を地上観測によって測定した(ニュースリリース)。
スターリンク衛星の運用高度は550kmと低軌道で,運用予定数も膨大のため,スターリンク衛星からの太陽光反射が観測データに頻繁に写り込むことなどが懸念されている。
国際天文学連合(IAU)はスターリンク衛星が天文観測や景観に多大な影響を及ぼす可能性があると声明を発表し,スペースエックスは,天文学研究者に衛星の明るさの測定を呼びかけると共にスターリンク衛星の反射光低減対策を試験的に行なった。
まず衛星の本体を黒色にすると,従来のスターリンク衛星に比べて明るさがほぼ半分になったが,一方でその塗装は熱を発生させやすく,赤外線を含む光の一部が反射されるなどの問題がある。
スペースエックスは別に,人工衛星本体に日除けを取り付けて太陽光反射を軽減するバイザーサットを開発。2020年8月に打ち上げられた60機弱のスターリンク衛星は全てバイザーサットだが,可視光以外での詳細な明るさの測定はあまり行なわれてこなかった。
研究では,紫外・可視・赤外線の広い波長帯でバイザーサットと,従来のスターリンク衛星の明るさを測定した。この波長帯で観測を行なうために,9つの国立大学および国立天文台からなる観測プロジェクトである光・赤外大学間連携,OISTER(オイスター)に観測提案をし,得た航跡データを比較した。
その結果,①バイザーサットの方が通常スターリンク衛星よりも可視光・赤外線で明るさがほぼ半分になる傾向にあること,②両機ともに肉眼等級程度の明るさになる場合があること,③可視光線より近赤外線観測の方が両機ともに明るく観測される傾向にあることがわかった。ピリカ望遠鏡/MSIによる紫外線観測では両機ともに航跡が検出されなかった。
衛星の太陽光反射の物理モデルに黒体放射を適用することで衛星本体の反射率とバイザーサットの日除けが本体を覆う割合(カバー率)を求めた結果,①反射率は可視光(6~15%)よりも近赤外線(14~47%)の方が高い傾向にあること,②バイザーサットのカバー率Cfは平均50%程度(0.18≦Cf≦0.92)だとわかった。
さらに,黒体放射モデルから求めたカバー率が大きくなるほどバイザーサットは暗くなるという直感と矛盾しない結果も得られ,バイザーサットの日除けは太陽光反射を抑制する効果があることを示した。その一方で,航跡が十分明るく写ることから観測への影響は残存することも明らかになった。
研究グループは今後,赤外線の観測も進めて,天文観測などへ及ぶ影響を評価することが重要だとしている。