佐賀大学の研究グループは,次世代の究極のパワー半導体のダイヤモンド半導体デバイスで,世界で初めてパワー回路を開発した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド半導体は,従来のシリコン,シリコンカーバイド,窒化ガリウム,と比べ,放熱性,耐電圧性,耐放射線性に優れており,地上だけでなく宇宙空間でも安定に動作させることができる。
研究グループは,昨年ダイヤモンドの大口径化と半導体デバイスの周辺技術の高度化を進め,次世代のパワー半導体のダイヤモンド半導体デバイスを作製し,世界最高の出力電力および出力電圧を報告した。一方,ダイヤモンド半導体は,パワー回路として動作させた場合,素子劣化は早く,長時間動作は困難で,実用化は容易ではないと報告されていた。
半導体デバイスは,回路の中で動作させなければならない。今回,ダイヤモンドウエハー上に作製したダイヤモンド半導体デバイスは,電極とプリント基板の間に研究グループが開発した方法で金線を使ってワイヤボンディングを行ない,世界で初めてダイヤモンド半導体デバイスのパワー回路技術を開発した。また,それにより実用で重要なスイッチング特性や寿命試験などの動的な特性を測定することが可能になった。
開発したダイヤモンド半導体パワー回路を高速でスイッチング動作させたところ,スイッチング時間はターンオン時間が9.97ナノ秒,ターンオフ時間が9.63ナノ秒となり,超高速のスイッチング動作を世界で初めて確認した。
スイッチング損失はターンオン損失では55.1ピコジュール,ターンオフ損失では153.2ピコジュールと低い値だった。これはダイヤモンドパワー回路が,いかにエネルギー損失が低く,効率が高いかを示している。
また,開発したダイヤモンド半導体パワー回路で,長時間連続測定を行なった。190時間連続測定したが,特性劣化は全く見られなかったという。動作中に出力電流値が徐々に増加し,入力電流値も増加する現象が見えたが,動作を終えると連続測定前の特性に戻る回復現象が見られたとする。
今回の成果は,ダイヤモンド半導体のパワー回路が動的特性においても問題はないことを示すものであり,研究グループは今後,パワー回路の実証試験を進めながら,デバイスの周辺技術の研究開発を進め,本格的に実用化に向けた研究開発を加速する。
それにより,カーボンニュートラルの実現とともに,通信量の膨大化により開発が急がれるBeyond 5G基地局からの出力の飛躍的向上や,未だ真空管が使用されている通信衛星の半導体化が実現できるようになることが期待されるとしている。