国立環境研究所(NIES)は,温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データから温室効果ガスの濃度を求める解析手法を見直すとともに,解析に必要となる温室効果ガスによる光の吸収の強さのデータベース更新などを行なった(ニュースリリース)。
GOSATに搭載された温室効果ガス観測センサによって観測された短波長赤外スペクトルを解析することで,二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)の気柱平均濃度を推定することができる。
NIESの温室効果ガス濃度推定に用いている手法は,濃度導出の際の誤差要因となるエアロゾルなどの影響を考慮し,温室効果ガス濃度に加えてエアロゾルに関する変数などを同時に推定することで推定精度を高めている。
今回,この導出の際の雲による影響を考慮する手続きを追加し,雲に関する変数を同時に推定する修正を行なったことで,これまで処理対象外とされていた薄い雲のあるシーンを処理対象にできるようになった。
加えて,TANSO-FTSの検出感度の劣化を考慮するモデル,太陽光の理論スペクトル,温室効果ガスなどによる光の吸収の強さをまとめたデータベースを更新し,温室効果ガス濃度推定手法を更新した。
約13年分の観測スペクトルに対して更新後の推定手法を適用し,温室効果ガス濃度を求めた。この結果を更新前の推定手法により得られた推定結果,地上設置型フーリエ変換分光計による観測ネットワーク(TCCON)のデータ,航空機や船舶等で得られた現場観測の結果と比較することで,データ数の変化や推定精度を評価した。
更新後の推定手法では陸上で更新前の推定精度とほぼ同等の精度でCO2濃度を推定でき,データ数が約13%増加したことがわかった。ただし,海上ではデータ数が約20%減少し,更新前のデータよりもさらに低い濃度となったことがわかった。
CH4についてもデータ数の変化傾向はCO2と同様で,更新後の推定手法によるCH4濃度の推定値は更新前の濃度よりも全体的に低くなり,精度については同等かやや良い結果となった。
また,更新前の推定手法で得られた海上のデータの解析から,10年程度の長期間のCO2濃度の増加率は現場観測に基づく増加率と比べて小さいということがわかっている。更新後の推定手法による海上のデータに対し,同様にCO2濃度増加率を評価したところ,更新前の推定手法による結果では現場観測によって求められた値と比べて10年あたり1.68ppm小さい値だったが,更新後の推定手法による結果では0.01ppm小さいだけとなり,大幅に改善した。
研究グループは,関連文書などの準備が整い次第,新しい解析手法によって作成された温室効果ガス濃度データの一般提供を開始するとしている。