千葉大学と米イリノイ大学らが参加する国際共同研究グループは,銀河中心超大質量ブラックホールにガスが降着し明るく輝く天体(クエーサー)が,近接しペアとして存在する「二重クエーサー」を,遠方宇宙で発見した(ニュースリリース)。
銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在することがわかっている。超大質量ブラックホールの質量はそれらが存在している銀河の性質と強い相関を持つことから,それぞれ影響を及ぼしながら成長してきたと考えられているが,その詳細については明らかになっていない。
銀河やブラックホールはお互い合体を繰り返しながら巨大銀河や超大質量ブラックホールに成長したという説が正しければ,遠方宇宙には銀河合体に付随した近接する超大質量ブラックホールのペアが多数存在し,ブラックホールの一部は,ブラックホールにガスが降着し明るく輝く天体「クエーサー」として観測され,銀河やブラックホールの成長過程を直接捉えた貴重な例となる。しかし,遠方宇宙で二重クエーサーはこれまで発見されていなかった。
研究グループはふたご座の方向,およそ108億光年先の遠方宇宙で,非常に近接したクエーサーのペア,二重クエーサーを発見した。この天体は二重クエーサーの候補として報告されていたが,今回の研究ではハッブル宇宙望遠鏡,ケック望遠鏡,ジェミニ望遠鏡,超大型干渉電波望遠鏡群,チャンドラX線観測衛星のデータを用いた多波長解析によって,銀河合体に付随した真の二重クエーサーであることを確認した。
ハッブル宇宙望遠鏡の画像では,それぞれのクエーサーに付随する銀河同士の合体による潮汐相互作用の兆候も確認された。二つのクエーサーはおよそ1万光年離れた距離にあるが,遠方宇宙でこれだけ距離が近く銀河同士がお互いに影響を及ぼしている二重クエーサーは初めての発見だという。
これらのクエーサーのブラックホール質量は,それぞれ太陽質量の10億倍と見積もられている。理論的には巨大銀河は銀河同士の合体を繰り返して形成され,またクエーサーの活動も銀河の合体によって誘起されると考えられている。今回発見された天体は,こうした理論予想と整合する。銀河合体の後,それぞれの超大質量ブラックホールは星との重力的相互作用によって中心に沈んでいき,およそ2億年後にブラックホール連星を形成すると考えられている。
クエーサーは超大質量ブラックホールへのガスの降着率の時間変化によって明るが変動するため,今回,中心が揺れ動いている天体のリストから二重クエーサーの候補が選ばれた。その候補を多波長追観測することで,二重クエーサーを効率的に発見できることが実証された。研究グループは,より効率的な二重クエーサー候補の追観測が可能になるとしている。