電通大ら,超強磁場中で結晶の伸縮をファイバで計測

電気通信大学,東京大学,茨城工業高等専門学校,東北大学は,室内発生世界最強の1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置を使い,600テスラの超強磁場下で結晶の「のびちぢみ」の瞬間的な光学的計測に成功し,遷移金属酸化物であるコバルト酸化物(LaCoO3)中の新しい磁気(スピン)超流動状態の兆候を見いだした(ニュースリリース)。

遷移金属酸化物は電子の自由度である電荷やスピンなどが強く相関し合うことで,多彩な秩序化が起こることから注目されている。特に,LaCoO3中には「磁気励起子」というユニークな自由度があるが,この磁気励起子の粒子的かつ波動的なふるまいには謎が多く,固体物理における最大の難問の一つとされ,60年以上におよび研究が続けられている。

さらに,LaCoO3は1000テスラ級の非常に強い磁場中において,磁気励起子の結晶化やボーズ・アインシュタイン凝縮などの新たな現象が起こると予想されていた。しかしながら,このような強磁場は世界最強の磁場発生装置を利用しても10マイクロ秒程度の一瞬しか発生できない。さらにこの極限環境において,一瞬かつ一発で物性を計測できる技術を必要とするために,これまで研究されてこなかった。

今回研究グループは,1000テスラ級電磁濃縮超磁場発生装置に独自開発の超高速ひずみ計測技術を導入することで,瞬間的に発生した超強磁場中でLaCoO3結晶の「のびちぢみ」を一瞬かつ一発で計測することに成功した。

爆発を伴う超強磁場発生中に一瞬のうちに一発で「のびちぢみ」を計測する超高速ひずみ計測装置は,計測対象の結晶側面に「ひずみゲージ」の機能を持つファイバーブラッググレーティングを接着し,ファイバーを通して離れた場所で,特別に開発した100MHz超高速計測法を利用して計測する。

これにより,LaCoO3における磁気励起子の超流動状態の兆候を600テスラの超強磁場下で初めて確認することができた。この成果はLaCoO3の基本的な性質を明らかにするもので,スピントロニクス技術におけるスピン流生成や量子コンピュータなどへの応用が見込まれるという。

また,超高速ひずみ計測法は超伝導体から金属まであらゆる固体に適用できるため,研究グループは,超強磁場の発生と計測技術を併用することで,今後も1000テスラ級の超強磁場において新たな電子状態や相転移などが発見できると期待している。

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