兵庫県立大学と九州大学は,有機色素の新しい化学修飾の手法を開発し,電気化学発光を飛躍的に向上させることに成功した(ニュースリリース)。
電気化学発光(ECL)は,電極表面での電気化学反応を利用し,励起光を使うことなく簡便に,時間的・空間的に制御された形で発光を生成できるため,溶液やゲルを反応媒体とするユニークな照明や,臨床診断用の免疫測定法などの開発が進められている。
これまでECL材料として,ルテニウムや白金などの金属錯体が用いられてきたため,貴金属を含まない純有機物が注目されている。しかし,有機ECL材料は電気化学的に生成させた中間体の安定性が一般的に低く,ECLを発する前に分解してしまうという問題があり,これを防ぐことが課題となっていた。
研究では,有機物の蛍光色素に分子レベルで防護具(プロテクター)を装着させる電気化学的な手法を開発した。具体的には,有機ホウ素化合物のトリスペンタフルオロフェニルボラン(TPFB)を防護具に選択。ルイス酸として働くTPFBは,ルイス塩基として働く蛍光色素と溶液中で混ぜるだけで結合した。
こうして防護具を装着させることで,蛍光色素のシリーズのECL強度を最大で156倍にすることに成功した。有機色素の中間体同士での副反応を制限し,色素の分解を抑制できるメカニズムを,詳細な測定から明らかにした。元々TPFBは,触媒やフォトルミネッセンスなど,様々な分野で用いられる嵩高いルイス酸として有名で,今回,その用途を拡大したと言える。
電極表面での一連の電気化学反応を経るため,ECL生成過程はフォトルミネッセンスに比べ,複雑かつ難易度が高くなる。これまでECL分野では励起状態から発光効率を高めることに主眼が置かれていたが,研究では,より重要な励起状態への移行過程を高効率化することができる防護具(プロテクター)のアイデアを採用した。
さらに,TPFBは固体中で有機色素の配列の制御にも役立つことが分かった。有機半導体のユニットを含む有機色素をTPFBとペアで組み合わせることで,有機半導体ユニットが一次元状に配列した。電極表面に修飾した結晶性薄膜がECLを生成し,その超分子構造を反映して長波長側にシフトした。これは,有機半導体の電気伝導特性と有機色素のECL特性を組み合わせた新しい発見となるという。
今回のアイデアは,事後修飾でも検討する価値があるとする。研究グループは,円偏光発光や近赤外発光に関する研究と融合させることで,次世代の臨床診断用医薬品やディスプレーなどの実用化に向けた材料開発が加速するとしている。