早稲田大学と東京工業大学は,結晶に光を当てることで固有振動が起きて高速屈曲が生じることを発見し,さらにこの固有振動と同じ周波数の光を与えることで,共振により屈曲が大きく増幅することを初めて発見した(ニュースリリース)。
光や熱などの外部刺激を動きに変換する「メカニカル結晶」は,軽くて柔らかいアクチュエータやソフトロボットへの応用が期待されている。研究グループは,光異性化や相転移に注目してメカニカル結晶を開発しているが,こうした結晶は数が限られ,光異性化については屈曲する動きが遅く(数秒),厚い結晶は屈曲しないといった問題点があった。
研究グループは光熱効果によって厚い結晶が25Hzの高速で屈曲することを発見した。その後,別の結晶を用いて,光熱効果による屈曲の機構をシミュレーションにより明らかにした。しかし,この光熱効果による屈曲は小さい(0.2–0.5度)ことが課題だった。
物体に固有振動と同じ周波数の外力を加えると,共振が発生して振動が増幅される。研究では熱膨張の大きい有機結晶に注目して,光熱効果による大きな屈曲を創出する研究中に,100ミリ秒で1.2度の光熱効果による大きな屈曲と同時に,390Hzの高速で0.1度の微小な固有振動が起きていることを初めて発見した。
この固有振動と同じ390Hzのパルス光を照射すると,共振により固有振動が3.4度に増幅され,共振固有振動によって結晶の高速で大きな屈曲が創出できることを初めて発見した。
この仕組みを解明するため,研究グループは,光熱効果による熱が結晶内を伝導してできた温度勾配により結晶が変形し,同時に生じた熱応力が結晶の振動を起こすという機構を仮定し,結晶の屈曲をシミュレーションした。その結果,共振を伴わない屈曲と共振により増幅された屈曲の両方を再現できた。
さらに,結晶の形状を変えると200–700Hzの様々な共振固有振動が観察され,長く薄い結晶では「大きい屈曲」が,短く厚い結晶では「素早い屈曲」が創出できることがわかった。この共振固有振動について屈曲速度とエネルギー変換効率(光→屈曲運動)を,光異性化,光熱効果,非共振固有振動による屈曲と比較した結果,最も速い屈曲速度(0.2–0.7ms-1)かつ最も高いエネルギー変換効率(~0.1%)が得られることがわかった。
固有振動の共振に注目することで,あらゆる結晶を高速で大きく屈曲させることが可能。また屈曲はシミュレーションできるため,結晶の種類やサイズ,光の照射条件などを変えれば望みの動きを設計できる。
研究グループは,汎用性の高い高速結晶アクチュエータやソフトロボットの実現に期待が高まる成果だとしている。