サンリックら,有機EL蒸着用省エネヒーターを開発

サンリック,東北大学,山形大学は,有機ELの有機物や金属の薄膜形成に用いる真空蒸着セルの開発を行ない,室温で加工できるタングステン-モリブデン系新合金(新合金)とその単結晶線材化プロセスからなる高性能真空蒸着セルを開発した(ニュースリリース)。

有機ELを用いた発光ダイオードは,真空蒸着法によって多くの素子が製造されている。真空蒸着法では,高真空中(~10-5Pa)で最大1600℃に加熱したヒーター線材により,蒸着セル中に配置した原料を蒸発させて薄膜を形成する。

従来のタンタル(Ta)製ヒーター線(Ta線)では,加熱に伴う結晶粒成長によって電気・機械的特性が劣化してしまうことや,電気抵抗率の低さによって温度制御性も低くなることが課題だった。

研究では,高電気抵抗率や電気抵抗率の温度依存性が小さく,2000℃以上の融点を有する新合金を開発。その電気抵抗率は,室温においてTaの約4倍,タングステンの約10倍におよび,最大使用温度域である1600℃においてもTaに比べて10%以上高いなど,温度制御性の高さを確認した。

この合金は,通常の溶解・冷却プロセスで製造すると機械加工が困難なため,融液からシングルプロセスで線材化する技術を開発した。結晶育成プロセスの開発と最適化を実施し,直径が0.8mm±10µmの長尺単結晶を連続的に製造することで,電気抵抗値3%以内の変動を可能とした。この合金線材は単結晶であることから,室温において曲げ加工やねじり加工が可能。

耐久性試験(~10-5Pa,1600℃)では,3000時間保持後の電気抵抗値の変化が約1%となり,従来のTa線と比べて3倍以上の耐久性を有することを確認した。

単結晶である新合金線材には,従来の機械加工法で製造された多結晶のヒーター線材で見られた結晶粒成長に伴う電気的・機械的特性の劣化が見られず,加熱前後での特性変化が極めて少ない。

有機EL薄膜の蒸着では,有機ELの構成材料であるフッ化リチウム(LiF)および有機EL蛍光材料(Alq3)の蒸着試験を実施した。新合金を用いた新規蒸着セルでは,同一の成膜レートを達成するのに必要な電流が従来のTa線による蒸着セルに比べ20%~34%少なく,約12%の省電力効果を実証し,2倍以上の温度制御性の安定化を確認した。

また,同一の蒸着レートを達成するまでの時間が,従来の蒸着セルに比べ約2.3倍高速であり,成膜時間の短縮や成膜エラー発生時の早期回復が可能。

サンリックは,有機EL製造装置向けに開発した蒸着セルの量産を計画。また開発した蒸着セルは,他の成膜用途へも応用できることから,引き続き研究開発と普及拡大を実施するとしている。

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