玉川大学の研究グループは,世界最高速の50Gb/sで真に予測不可能な乱数を発生する量子乱数発生器の実証に成功した(ニュースリリース)。
研究グループは,量子技術の応用の一つである量子乱数発生を用いることで,Y-00光通信量子暗号の安全性を向上する手法を見出した。そこでは,10Gb/sを大きく上回るような量子乱数発生技術が必要となる。
高速の量子乱数発生を実現できる有望な技術として,レーザー光の量子雑音を利用した乱数発生源を用いる手法があるが,これまでの最高生成速度は18.8Gb/sだった。
この速度限界を打破するために,研究グループは,多段のビームスプリッタ(BS)を使って一つのレーザー光を分岐して量子乱数発生器を並列化する方法に着目した。並列化により高速化を実現するためには,各チャネルが広帯域で動作する状況を維持したままチャネル数を拡大する必要がある。
真空場揺らぎの測定に基づく量子乱数発生器のシステムは,BSとバランス光検出器(BPD)を用いた単体の構成が基本となる。BSの片側ポートのみからレーザー光を入射し,二分岐したレーザー光は独立であるため,それぞれの光の量子雑音は独立となる。よって,これらの差分であるBPDの出力は,真空場揺らぎとなる。
この真空場揺らぎをアナログデジタル変換器(ADC)でデジタル化した後に,乱数抽出処理としてランダムなビットで構成されるテプリッツ行列との乗算を行なうことで,乱数出力を得る。多段に光を分岐した後でもレーザー光の量子雑音は独立となる。よって,1×8の光スプリッタを用いて,4並列化した量子乱数発生を実現できる。
実験では,4並列の量子乱数発生器を,高出力パワーの1.3μm帯の分布帰還型レーザーダイオード,低損失の石英系平面光波回路スプリッタ,高速ADCを搭載したフィールドプログラマブルゲートアレイ回路基板で実現した。
一つのレーザー光をスプリッタで分岐して,許容入力上限である20mWをそれぞれのBPDに分配した。各チャネルで2GHz以上の広帯域にわたり真空場揺らぎを測定し,乱数抽出処理によりチャネルあたり12.5Gb/sの高速で乱数を発生する。4チャネル合計の生成速度は,50Gb/sとなる。
真空場揺らぎのヒストグラムと分散を測定した結果,ゼロ平均のガウス分布をもつ揺らぎが4チャネルすべてにおいて安定して得られた。出力乱数を評価した結果,全チャネルにおいて良質な乱数の出力を確認した。
この成果は,量子乱数発生器の乱数生成速度の記録を大きく更新するもの。研究グループは今後,チャネル数の増加によるさらなる高速化や,光集積回路技術による小型化の検討のほか,高速の量子乱数発生器の応用分野の拡大にも挑むとしている。