NICTら,量子暗号でゲノムの安全な伝送システム構築

情報通信研究機構(NICT),京都大学,東芝,ZenmuTechは,量子セキュアクラウド(量子暗号ネットワーク上に秘密分散を組み合わせた分散ストレージシステム)にゲノム解析専用装置を装備し,全ゲノムデータの安全な伝送・保管・解析をリアルタイムで実施できるシステムの開発に成功した(ニュースリリース)。

個人のゲノムデータは究極の個人情報であり,超長期に秘匿性を担保しつつ利用する必要がある。しかし,現時点では従来の暗号技術での秘匿化に留まっており,2030年頃に実現されるといわれているフルスケール量子コンピュータを用いれば解読されるおそれがある。今,解析が困難としても,保管されているデータも将来攻撃されるリスクがあり,十分な対策が取られていないのが現状だという。

今回,研究グループは,将来どのようなコンピュータが出現しても盗聴のリスクのない情報理論的安全な通信を可能とする量子暗号ネットワーク上に,情報理論的安全なデータ保管を可能とする秘密分散プロトコルを実装した量子セキュアクラウドを形成,さらに,ゲノム解析専用装置(全ゲノム解析を高速処理する専用ハードウェア)を物理的安全に実装し,情報理論的安全なデータ解析ができるシステムを開発した。

解析専用装置を“信頼できるサーバ”として取り込み,サーバ内での処理以外でのデータを情報理論的安全な形式に変換することで,安全な全ゲノム解析が可能となったという。高速処理を重視し,情報理論的安全性を持ちつつ,高速処理が可能な排他的論理和ベースの秘密分散プロトコルを採用。秘密分散処理では700Mb/sを超える処理速度を実現。また,高速OTP装置では2Gb/sの処理速度を実現した。

さらに,解析結果に関し,研究や治療に不要な個人情報をフィルタリングする機能も実装した。この機能を付加しても,ゲノムデータ解析者(研究者や医師)は,ゲノムデータを遅延なく利用することができる。これにより,ゲノムデータ所有者(ゲノムデータを提供した個人,データ保管組織)及びゲノムデータ解析者の双方が安心して提供・解析できる環境が実現できるとする。

このようなサービスは,専用ハードウェアのような計算リソースを有効活用でき,また,超長期に秘匿性を必要とする情報の保管・利活用も容易になる。研究グループは今後,様々な計算リソースや複数ユーザによる相互参照を可能とする仕組みを量子セキュアクラウドに実装し,リーズナブルなコストで,ゲノムデータや医療現場における患者のMRI画像データを安全に利活用できる新しいデータプラットフォームとしての機能実証を目指すとしている。

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