電通大ら,X線の偏光と特異な量子干渉効果を発見

電気通信大学と東京大学は,多価イオンが高エネルギー電子を捕獲する際に放出する高エネルギーX線の偏光度を測定し,これまでの原子物理の常識では偏光していないと考えられていたX線遷移が大きく偏光していることを突き止めた(ニュースリリース)。

原子やイオンは,高エネルギーから低エネルギー状態に移行するときに,波長を持つ電磁波を放出し,その波長を調べることで原子やイオンの構造を知ることができる。

特に電磁波の偏光度からは,それを放出した原子やイオンの中の電子がどの方向に運動していたかという「向き」に関する情報を得ることができる。

研究では,鉛(Pb)原子がもともと持っていた82個の電子のうち78個を取り去り残り4個にしたような鉛多価イオン(Pb78+)を,多価イオン実験装置内に生成し閉じ込めた。閉じ込めた領域に高エネルギー電子を入射すると,その電子を鉛多価イオンが強いプラスの力(クーロン力)で引き寄せ捕獲する。その際に放出するX線を,宇宙観測のために開発されこの研究用に改良されたコンプトン偏光計EBIT-CCで観測した。

コンプトン偏光計は,検出器内でコンプトン散乱を起こしたX線の散乱角度を測定し,偏光度を知ることができる。EBIT-CCでは散乱を検知する検出器と散乱光を捕らえる検出器から構成されている。それぞれの検出器は小さな検出素子に分割されており,どの素子がX線と反応したかを調べることで散乱位置,散乱方向を知ることができる。

電子が多価イオンに捕獲される際にX線を放出する過程のうち,研究では捕獲された後多価イオンの周りを短い時間周ってからX線を放出する過程(二電子性再結合過程)で放出されるX線の偏光度を調べた。

しかし,原子物理の常識から無偏光であると考えられていたにもかかわらず,測定を繰り返しても結果は大きな偏光度を示し,X線が実は常識とは異なり大きな偏光度を有しているのだという結論に至った。

常識を排除した理論解析を行なった結果,実験で得られた予期せぬ大きな偏光度は,実験で観測された予期せぬ大きな偏光が,量子干渉効果(量子力学における確率の波同士の干渉)の結果であることが明らかになった。

通常,干渉を起こす二つの波の初期状態は等しい必要があるが,今回観測された偏光を生じさせたのは,角運動量の異なる二つの波,つまり厳密には異なる初期状態を持つ二つの波が引き起こした特異な干渉効果であることも明らかになった。

研究グループは,偏光が干渉効果により大きな影響を受けることは新しい知見であり,今後の宇宙観測や核融合実験などに今回の成果が活かされることが期待されるとしている。

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