日本電信電話(NTT)は,これまでの光ファイバと同じ直径を保ちながら伝送容量を10倍に拡大可能な空間モード多重光ファイバによる,世界最長(1300km)の10空間モード多重信号の光増幅中継伝送に成功した(ニュースリリース)。
マルチモードファイバ(MMF)は,複数の空間モードを用いてそれぞれ異なる情報を送ることで伝送容量を多重数(空間モード数)に応じて増やすことができ,これまでのシングルモードファイバ(SMF)と同じ直径(標準クラッド径)を維持したままでも単一の光ファイバで10以上の多重数へ容易に拡張できる。
一方で,伝送途中に発生する異なる空間モードの光信号の混じり合い(空間モード結合)や,各空間モード光信号の受信器への到着時間ずれ(モード分散)によって生じる信号波形歪みを,受信機におけるMIMO型デジタル信号処理によって取り除く必要がある。
特に,より多数の空間モードを使うほど,また距離が長くなるほどモード分散の影響は大きくなり,それに応じて要求されるMIMO信号処理の処理量がボトルネックとなっていた。
研究では,より多くの空間モードを持つ光伝送路向けに対応可能な拡張巡回モード群置換技術を提案した。この技術では,10以上の空間モード多重伝送を行なう際に顕在化する各空間モードの光伝送特性差(光損失,伝搬遅延時間等)を平準化するために,光増幅中継器において空間モード間での強制的な光信号の入れ替え(置換)を効率的に行なう。
この結果,モード置換に伴う信号損失劣化を低減しつつ,伝送中に累積するモード分散を抑圧できるため,受信器内でのMIMO信号処理量を低負荷化できる。
これまで検討した6空間モード多重伝送では,空間モードの置換の候補総数は720通り(6の階乗)であったのに対し,10空間モード多重伝送では約363万通り(10の階乗)へと増大する。研究では高い平準化効果を得るため,光学的特性の似た空間モードをグループとして取り扱う「モード群」の特性に着目し,10空間モード多重光ファイバを用いた長距離伝送実験を行なった。
置換の前後で必ずモード群の変換が起こる置換方式を用いた場合,1300kmの距離を伝送した後に従来伝送と比較して82%の信号パルス拡がりの低減効果が得られた。この結果は同時に,受信側のMIMO信号処理の規模を従来比約5分の1へ低減できる可能性を示唆する。
また,1300km伝送後にすべての伝送チャネルにおいて誤り訂正復号閾値を上回る良好な信号特性を確認し,既存のSMFと同じ標準クラッド径のMMFを用いた空間モード多重伝送において,10空間多重信号の世界最長伝送記録を達成した。
同社は,ペタビット級の超多重スケーラブル光ネットワークの実現に貢献する成果だとしている。