大阪公立大学の研究グループは,原子核構造の違いを実験で判別する理論を開発した(ニュースリリース)。
ヘリウム原子核はそれぞれ2 つずつの陽子,中性子(総称して核子)が強く束縛した4核子系で,しばしば原子核の中で「部分系」を形成する。原子核がこのようないくつかの部分系から構成される構造をクラスター構造と呼ぶ。
このクラスター構造は,原子核の標準的な見方であるいわゆる殻構造では理解することが難しいことが知られており,それぞれの原子核が,実際にはクラスター構造を持つのか,それとも殻構造を持つのか,はっきりと区別する方法はなかった。
研究では,クラスター構造と殻構造を一つの枠組みで表現できる「反対称化準クラスター模型」を開発し,炭素および酸素に適用した。その結果,得られた炭素や酸素原子核の密度分布は,クラスター構造を仮定した場合と殻構造を仮定した場合で大きく異なることが明らかになった。さらにその違いは,それぞれの原子核に対して,高エネルギーに加速された陽子による散乱実験を行なうことで,データとして可視化されることを示した。
今回の理論計算と,既存の実験データとの詳細な比較から,炭素および酸素の原子核においては,クラスター構造の成分が多く含まれていることが明らかになった。
この研究手法は簡便かつ強力で,大規模な数値計算を行なうことなく原子核構造の「可視化」を行なうことができる。研究グループは,今後はネオン,マグネシウム,ケイ素同位体といったより重い原子核への適用を考え,私たちの身の回りにある元素がどこから来たのか,という究極の問いに挑み続けるという。
また,恒星内の原子核反応はヘリウム原子核を介した核融合反応が主要であり,クラスター構造をもつ原子核の存在は,恒星内の元素合成過程において極めて重要。原子核反応率は反応前後の構造が似ているほど増大すると知られており,これらの原子核がクラスター構造を持つことが分かったことで,より多くの元素が合成されたと考えられるとしている。