大阪公立大学と理化学研究所は,ナノ流体デバイスに搭載したナノバルブを外部からの圧力によって開閉することで,溶液中の1分子の流れを制御することに成功した(ニュースリリース)。
分子1つ1つを自由自在に操作して物質を組み立てられれば,これまで合成できなかった化学品,薬品,マテリアルを分子で自由に構築することができるようになる。しかし,化学反応が最も多く起こる溶液中では,大きさの非常に小さい分子が溶液中にたくさん分散して存在し,激しく不規則な運動(ブラウン運動)をしているため,分子1つ1つを直接制御する実験手段がなかった。
そこで研究グループは「ナノ流体デバイス」と呼ばれる微小な流路が形成されたガラス製デバイスを用いて,溶液中において分子を自在に操作する技術の開発を行なっている。
通常,ナノ流体デバイスはストローの100万分の1という極めて細いナノサイズの流路を形成した2枚の硬いガラス板を貼り合わせて作製するが,研究では片方にリボンのように薄くて柔らかいガラス板を,もう一方にナノ流路とバルブ機能を持つ微小な構造物を形成した硬いガラス板を使用し作製した。
柔らかいガラスに外部から圧力を加えて変形させることで,微小な構造物がピンポイントでナノ流路を閉塞・開放する「バルブ」の機能を果たし,流路を流れる溶液中の1分子を制御することに成功した。
次に,ナノ流体デバイスを流れる溶液中の分子の動きを確認するため,蛍光を発する分子の溶液の観測を行なった。溶液中の蛍光分子の数が少なくなるほど蛍光信号は弱くなるが,微小なナノバルブ部分のナノサイズ空間(バルブナノ空間;深さ47nm)では,分子の数が少ないにも関わらず分子らから発生する光信号が増強することが分かった。
さらに,1分子のブラウン運動の変化を観測したところ,バルブナノ空間ではナノ流路内に比べて運動範囲が狭く,ブラウン運動の抑制効果が確認された。これらのことから,バルブナノ空間には閉じ込めた分子に対して特異的な効果があると明らかになった。
研究グループは,溶液中の分子1つ1つを自由自在に操作できるようになると,化学,生化学合成にパラダイムシフトをもたらすことが期待されるとする。例えば,個人の体質に合わせた治療薬等のための精密医療用材料など,これまで難しかった分子の合成や操作が期待できる。
また,今回明らかとなったバルブナノ空間の特異的な閉じ込め効果を活かして,寿命や性能といった点で,従来より優れたディスプレーや電池等のための産業用材料の開発,特定の疾患バイオマーカー分子による診断技術の開発が期待されるとしている。