京大ら,ミリ波でダークフォトンの探索手法を確立

京都大学と筑波大学は,電磁波の一種,ミリ波を観測する受信機を応用して,ダークマターを探索する実験手法を確立した(ニュースリリース)。

ダークマターは宇宙の全エネルギーの1/4を占める一方,ダークマターは通常の物質とはほとんど反応しないこともわかっており,人類は未だその直接的な検出に成功していない。そのため,ダークマター1個の質量も分かっていない。

これまでは,陽子よりも重いダークマターを仮定した探索が盛んに行なわれてきたが,決定的な実験結果はありません。そこで,軽いダークマターの可能性が注目され始めている。軽いダークマター候補の中でも,研究グループは,光と微弱に反応するという特徴も持った粒子「ダークフォトン」に注目している。

今回探索した0.1ミリ電子ボルトを含む,超軽量の質量領域のダークフォトンというのは,これまで探索されたことがなく,人類未踏の質量領域だった。

ダークフォトンは金属表面で微弱な光に転換され,その光が金属板の垂直方向に放出される現象を引き起こすと予言されている。その転換光を検出できれば,ダークフォトンの決定的証拠となる。ダークフォトンと転換光の間には,それらの持つエネルギーは等しくなるというエネルギー保存則が成り立つ。

ダークフォトンの持つエネルギーはその質量に由来し(𝐸=𝑚𝑐2の式より),光の持つエネルギーはその周波数に対応することから,転換光の周波数はダークフォトンの質量に1対1対応する。例えば,ミリ波帯域の転換光は,ダークフォトン質量0.05-1ミリ電子ボルトに相当する。

この領域は宇宙観測からの間接的な制限が弱く,かつ地上実験による探索も全くされてこなかった質量領域。研究では,18-26.5GHzの転換光を受信できる受信機を開発し,金属板からの転換光を検出する実験を行なった。

転換光の強度は非常に弱いため,雑音の少ない受信機を開発する必要がある。そのために,熱雑音を極限まで抑えられるよう,受信機全体を-270°Cの極低温まで冷やした装置を開発した。10日間の実験によって,世界で初めてこの質量領域でのダークフォトン探索実験を行なうことに成功した。

この研究によって,ミリ波受信機を用いて超軽量ダークマターを探る実験方法が確立した。今後,測定可能な周波数帯域を変えていくことで,さらなる前人未踏の質量領域にわたってダークマターを探していくことが期待される。研究グループはそれを目指して研究を進めていく。

また,ミリ波を受信する技術の高度化は,5G,6G通信等の産業技術の発展にも役立つと期待されるとしている。

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