東京都立大学,産業技術総合研究所,東北大学,名古屋大学,筑波大学,大阪大学は,直径数〜数十ナノメートル程度の遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)のナノファイバーの内部に金属原子を効率的に挿入する技術を開発した(ニュースリリース)。
TMCは,均一な結晶構造をもつ細線状ナノ材料の候補として知られている。また,多数のTMC細線が束になった結晶の隙間に,アルカリ金属などが挿入された構造として,三元系TMCと呼ばれる物質も存在する。三元系TMCは約40年前に発見され,挿入する原子の種類によっては超伝導を示すことも報告されていた。
従来の研究では,固体原料を高温で焼結して三元系TMCの結晶が合成されていたが,この手法では,基礎・応用的にも興味深い長尺なファイバーやそのネットワーク薄膜,そしてナノサイズの厚みをもつ極薄なファイバーなどの合成は難しい。そこで,新たな三元系TMCナノファイバーの合成法の開発が望まれていた。
そこで今回,研究グループは,二元系TMCのナノファイバーを出発原料にして,金属原子の挿入による三元系TMCナノファイバーの実現を試みた。高品質な三元系TMCのナノファイバーを合成するため,インターカレーションと呼ばれる手法を利用した。研究では,化学気相成長法で合成したW6Te6ナノファイバーに対し,昇華法によってIn原子のファイバー内部への挿入を試みた。
具体的には,シリコン基板上に合成したW6Te6ナノファイバーと固体Inを試験管に入れ,真空にして約500℃で加熱した。Inの蒸気にナノファイバーを晒すことで細線間の隙間にIn原子が侵入する。
作製したナノファイバーの断面を原子分解能電子顕微鏡により観察したところ,インジウム(In)原子が挿入された結晶構造を直接観察した。このような金属原子の挿入技術の確立は,金属原子とTMCナノファイバーの多彩な組み合わせによる新材料・新機能の実現や超伝導特性の発現につながることが期待されるという。
研究グループは今後,新たな三元系TMCの実現や合成技術の高度化により,柔軟な構造を有する超伝導ファイバーをはじめ,微細な配線・透明電極・導電性複合材料などの応用開発も期待されるとしている。