京都大学と筑波大学は,21世紀の新しい物質「トポロジカル量子物質」の一種である「トポロジカル結晶絶縁体」を用いて,そのトポロジカル性に由来する新奇なスイッチング効果を室温で実現することに成功した(ニュースリリース)。
「トポロジカル結晶絶縁体」はトポロジカル絶縁体の一種であるためトポロジー的な性質を持つ材料であり,大きな注目を集めている。こうしたトポロジカルに特徴的な物質では、その物質の電子状態の捻れに由来する仮想的な磁場が物質内部に発生することが知られており,その仮想的な磁場を活用した新奇なスイッチング効果やメモリー効果が期待されている。
研究グループは,トポロジカル結晶絶縁体であるPb0.48Sn0.52Te(鉛スズテルル)に着目。この材料は,そのトポロジカル性が結晶構造で保証されているこの特徴を持つトポロジカル絶縁体の一種であり,さらに強誘電性も兼ね備えている点に特徴がある。
鉛スズテルルに電圧をかけると強誘電性のおかげで原子の位置にズレが生じ,しかもそのズレは電圧を切ったあとも保持される。更にこの原子位置のズレは,鉛スズテルルの持つトポロジカル性の起源であるベリー曲率の値を場所によって変えることになる。
このときベリー曲率同士に仮想的な分極(ダイポール)が生じるため,これをベリー曲率ダイポール(BCD)と言う。このBCDの存在は,BCDが仮想的な磁場を生むことになるため,その物質の電気伝導特性を調べることで確認することができる。
従来から,BCDがスイッチングできる(向きを変えられる)ことは知られていたが,その機能の発現と制御は低温(約140ケルビン=摂氏マイナス133°C)に限られていた。更にこのBCDを保持しておく機能があることは知られていなかった。
今回,ゼロでないBCDを持ち,さらに強誘電性を持つ鉛スズテルルを用いることでBCDのメモリー効果の存在をはじめて確認し,更に従来は不可能だった室温という応用展開に極めて重要な温度領域でBCDのスイッチング効果とメモリー効果を確認できた。
今後求められる研究としては,メモリー効果の書き込み速度を上げることやその保持時間の確認,また繰り返し耐性を確認することがある。また,さらにBCDそのものを大きくできる材料の工夫も必要となるという。研究グループは,これらを通じてトポロジカル量子物質を用いた新しい電子素子の創出に向けた道程を開拓できることが期待されるとしている。